召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華、霊障の相談を受ける (第4幕)
週末になって最神玲と物部かすみと神室霊華は、何時もの様に別荘に滞在している。加えて今日はこの人も滞在中である。
「うわー、やっぱ、朝の露天風呂って
めっちゃ気持ちいいですよねー」
と体から湯気を立ち昇らせたRINAが露天風呂から戻って来て、朝食の準備をしているかすみと神室霊華に今のこの上機嫌な感想を報告した。RINAは1時間ほど前に別荘にやって来て、その足で早速露天風呂を堪能していたのだった。
「せやねんな。朝の露天風呂って
空気が新鮮ちゅうか、
夜とはまた違う雰囲気があるねんなー」
「そうですね。それと日の出を拝みながら
湯船に浸かるというのも、
何とも言えず神秘的な体験になりますよね」
と女性陣3人は露天風呂談議に花を咲かせていた。そしてRINAも手伝いに加わって、まだまだ3人で何やら話していると、「おはよう、みんなぁ~はぁ~」と欠伸をしながら玲が起き出してきて、早速リビングのソファーに腰を下ろしてテレビのニュースを見だした。
世間は相変わらず日本の近辺に展開しているアメリカ軍の動向に注目しているが、この事態を引き起こした玲はと言うと、最早そのことには関心はなくなっていた。それよりも、
「とりあえず、ここにいるメンバーで
問題の廃墟に向かうということなんだね?」
とキッチンにいる女性陣に向かってそう尋ねた。すると代表して神室霊華が
「はい、朝食の後に早速見に行こうかと思いますが、
皆さん問題ありませんか?」
とそれぞれのスケジュールを確認するが、当然誰も問題はない。RINAに至ってはそのために来ているところもあるため、
「心霊スポットに行くなんて、
自分の試験の時以来ですね。
何だか緊張して来ました」
と何やら期待に胸を膨らませながらも少し緊張している、そんな感想を口にした。するとかすみが
「まあ、あまり気ぃはらずにいた方がええで。
うちらは降霊召喚門の結界を張っておけば、
まず襲われる心配ないからな」
と落ち着いた表情でRINAにそうアドバイスした。RINAも「はい、そうしますね」と元気に返事をして、早速4人で朝食を頂くことにした。
「ところで、玲。あれは出来たんか?」
とかすみが、まだ欠伸をして眠そうな玲に向かってそう問いかけた。玲は
「うん、何とか昨晩のうちに
調整しておいたから、多分問題ないよ」
と答えるが、実は徹夜に近い状態で何やら作っていた、と言うか何かを調整していたのだ。するとRINAが早速興味を持ったのか玲に対し
「えっ、何か道具でも持って行くんですか?」
と尋ねるので、玲はこれから行うことをRINAに説明した。
「へぇー、そんなことが出来るんですね。
でもそれって、一般的なことなんですか?」
「うーん、多分、僕らのオリジナルだね。
もっとも、物理学者の方が
原理を分かっているかもしれないから、
もっと精密な装置を作れるかもしれないけど......」
それ以前に霊体の存在を信じてないだろうし、信じていてもそれを目にすることは出来ないため、結局絵に描いた餅ではないかと指摘するのだった。
さて朝食後に早速4人は普段着の上にダウンコートを羽織った。どうやら現地は、ここと同じように気温が低そうだと判断したからだ。そして玲はと言うと、何やら色々な荷物を持っている...と言うことはなく、手ぶらである。と言うのも、彼の場合、現地で直接召喚するか、あるいは転移で持ってくることが出来るからだ。そして早速、神室霊華が既にマークしておいた転移門を探し出し、玲の転移で現地に向かった。
朝のこの時間から流石に心霊スポットを探検する物好きはおらず、問題の廃墟と化したラブホテルには4人以外誰もいない。
「うわー、なんか別荘と同じように
雪が積もってますねー」
「せやなー、まあ、室内は大丈夫やと思うねんけど、
ただ結構冷えるな、ここ」
とRINAとかすみはそんな会話を交わしている。それよりも、
「私には怨霊か悪霊の気配を感じないのですが、
皆さんどうですか?」
と神室霊華が自分が感じた状況を伝えるが、実は他の3人も何も感じていないのだ。
「うーん、僕の感じだと、
浮遊霊がいるのは分かるけど、
その問題の動画に移っている悪霊かな、
その気配は感じないね」
「ほなあれか、今は休憩中とかだったりしてな!!」
「そのうち、悪霊さん入りまーす、とかなったりしてな、ひゃっひゃっひゃっ」とかすみはボケをかましながら変な笑いで答えるが、まさにかすみの指摘通りなのかもしれないと全員そう感じていた。「とりあえず、中に入りますか?」と玲の合図で、全員自分たちの周りに降霊召喚門の結界を張ってから、中に足を踏み入れた。
4人はまず、玲とRINA、かすみと神室霊華に分かれて、各階を手分けして捜索することにした。
「何だか、ここの廃墟、やばいですねぇ」
と本格的な廃墟の探索に少し興奮気味のRINAはそんな感想を口にした。
「まあ、今の所問題はなさそうだしって......
おっと、早速浮遊霊のお出ましだね」
と玲はある部屋の中を指さしながらそう指摘した。RINAも何となく浮遊霊の存在を感知していたのだが、改めて指摘された方向に目を移すと、そこには年老いた女性の霊体が揺蕩っていた。
「玲さん、この幽霊って
除霊とかされるんですか?」
「うーん、そうだね。
以前なら迷わず除霊していたんだけどね、
最近は――」
害のない霊体については出来る限り除霊しない方針だと、玲はRINAにそう答えた。するとRINAは不思議そうな表情を漂わせるので、要するに心霊スポットを無くすことがいいのかどうなのか判断がつかないから、という答えをRINAに返した。すると
「うーん、やっぱどうなんでしょうかね。
心霊スポットってあった方が良いんですか?」
と疑問に思うようだが、そんな時、かすみがカフリングを通じてRINAの疑問に対しこう答えた。
[せやなー、心霊スポットって
危険な奴はちゃっちゃと片づけた方がええねんけど、
そうでなければ結構楽しめたりするねんで]
と昨年の東洛総合大学心霊サークルの夏合宿で、まるで動物園ならぬ幽霊園を案内していた時の心境を伝えた。学生たちからすると、どんな些細な幽霊でも、それが映像として撮れれば大喜びする訳で、そんな彼らの楽しみを奪うことに少しずつだが抵抗を感じてきたことも併せて伝えた。
[まぁあれやで、ガイドがちゃんといれば安全やし、
いなくても浮遊霊とかやったら、
憑りつかれても簡単に除霊できるしな]
それ故に、何かしらの娯楽としてあってもいいのでは、と言うのがかすみの考えであった。とは言え、このような考えに行きつくには、やはり数多くの体験が必要であり、神室霊華も
[そうですね、私はまだ少し腑に落ちないところが
あったりしますが、でも最近では
何となくそうかな、と思うようにはなりましたね]
と言うことで、RINAは「まだまだ、自分は修業が足らない、そんな感じですね、ははは」と笑いながら納得したようである。
さて、4人は今、問題の部屋に集まっている。この部屋が最後の探索場所なのだが、ここに来るまでに廃墟内を探索した結果、問題の悪霊は結局見つからなかった。そしてこの部屋でも、悪霊の痕跡を4人とも感知できずにいた。
「うーん、やっぱかすみさんの言うように、
休憩中なんですかねー」
とRINAは腕組みをして真剣に考えていたが、直ぐに
「そのうち、かすみさんじゃないけど
『悪霊さん入りまーす』って
合図があったりしてね」
とニヤニヤしながらそんなボケをかましてきた。これは明らかにかすみの悪い影響だろう。そんなボケに対しかすみはお腹を抱えて笑い出した。この2人の光景を見ていると、ここが心霊スポットであることを忘れてしまいそうだ。そんな2人も、やはり休憩中は冗談だとしても、これだけ探しても見当たらないという点に徐々にだが不審を感じていた。
「霊華さん、ホンマにここであってんねんな?」
「はい、場所は本人から聞いておりますし、
あの特徴的な塔ですか、
あれは結構目立ちますからね」
と言うことで、問題の廃墟であることは間違いなかった。だとすると、ここに巣食う悪霊は一体どこに行ったのだろうか?
「あっ、もしかして誰かに憑りついて
そのままどこかに行ったとかって、
考えられませんか?」
とRINAは突然何かを閃いて誰にともなくそう尋ねた。するとかすみが、
「うーん、その可能性は無いとは
言われへんけどなー、どっちかと言うと、
怨霊ならありそうやねんけど、
悪霊やとどうやろなー......」
と腕組みをして考え出すが、それに対し玲が
「うん、かすみの言うことは分かるけど、
もし悪霊が誰かに憑りついたのだとしたら、
まずは神室さんの依頼者が第一候補だよね」
「はい、玲さんの仰る通りですが、
残念ながらと言うか、幸運にもですか、
その依頼者に悪霊も怨霊も何も
憑りついてはいませんでした」
と神室霊華が答えることからして、悪霊が誰かに憑りついて不在という可能性は大きくない感じである。