悪役令嬢は世界のバグを修正する
王立アルカディア学園の正門は、まるで城門のような威厳を放っていた。
巨大な白石で築かれた門柱。
その上には、王国の紋章が誇らしげに掲げられている。
朝の光を受けて、白い石が柔らかく輝いていた。
門の前にはすでに多くの馬車が並んでいる。
侯爵家。
伯爵家。
騎士家。
それぞれの家紋を刻んだ豪華な馬車が、次々と学生を送り届けていた。
御者が扉を開け、貴族の子息や令嬢たちが優雅に降りていく。
男子学生たちは互いに挨拶を交わし、
令嬢たちは扇を手に、小さな声で会話を楽しんでいた。
穏やかな朝の光景。
だが、その空気がふと変わる。
一台の馬車が門前に到着した瞬間だった。
深い紺色の車体。
扉に刻まれた紋章。
銀の獅子と剣。
――アルヴェルン公爵家。
周囲の学生たちが、自然とそちらを見る。
小さなざわめきが起きた。
御者が馬車を止める。
扉の前に回り、恭しく頭を下げた。
「お嬢様、到着いたしました」
静かに扉が開く。
そして――
レティシア・アルヴェルンが馬車から降り立った。
長い金の髪が朝の光を受けて揺れる。
淡い青の瞳は落ち着いており、その表情には一切の動揺がない。
その瞬間だった。
空気が、変わった。
さっきまで聞こえていた笑い声が途切れる。
学生たちの視線が、一斉に集まる。
そして、ざわめきが広がった。
「……あれ」
「レティシア様?」
「本当に来たの?」
小声が、あちこちから聞こえる。
「舞踏会の……」
「王太子殿下の断罪を覆したって」
「証拠を全部崩したらしいぞ」
「信じられないわ……」
噂は、すでに学園中に広がっていた。
王都の社交界で起きた事件は、貴族社会では一瞬で伝わる。
ましてや今回の騒動は、
王太子。
公爵家。
そして公開断罪。
どれをとっても、無視できる出来事ではない。
その中心人物が、
今、目の前にいる。
レティシアは、そんな視線を受けながらも、ゆっくりと歩き出した。
石畳の道を静かに進む。
周囲のざわめきはさらに大きくなる。
だが――
彼女の表情は、まったく変わらない。
ただ、ほんの少しだけ周囲を見回し、
小さく呟いた。
「……騒がしいわね」
その声は静かだった。
しかし、近くにいた学生たちは思わず言葉を失う。
噂の中心人物。
断罪を覆した令嬢。
そして今、
王立アルカディア学園の門をくぐる。
レティシア・アルヴェルンの学園生活が、
静かに始まろうとしていた。