悪役令嬢は世界のバグを修正する
レティシアが門をくぐると、ざわめきはさらに広がった。
遠巻きに見る学生たち。
すれ違うたびに、視線が向けられる。
そして、あちこちから小さな声が聞こえてきた。
男子学生のひとりが、隣の友人の肩をつつく。
「……見たか?」
声を潜めた問いだった。
もう一人が視線を向ける。
「ああ」
そして小さく息を飲んだ。
「あれが……レティシア様か」
石畳の道を、静かに歩く公爵令嬢。
その姿は、噂よりもずっと落ち着いて見えた。
だが学生たちの間では、すでに話題は一つしかない。
令嬢たちの集まりでも同じだった。
一人が扇で口元を隠しながら囁く。
「舞踏会の……」
別の令嬢がすぐに続ける。
「王太子殿下の断罪を論破したっていう」
「本当に?」
驚いたような声。
三人目の令嬢が頷く。
「ええ。父が言っていたわ」
少し声を落とす。
「証拠を全部崩したらしいの」
その言葉に、周囲の令嬢たちが息を呑む。
「全部……?」
「そんなこと、本当に出来るの?」
「王太子殿下の前で……?」
信じられない、という顔だった。
しかし噂はすでに広がっている。
王都の社交界で起きた事件は、
貴族社会では
瞬く間に伝わる。
まして今回は、舞踏会という公開の場で起きた出来事だ。
王太子。
公爵令嬢。
公開断罪。
どれもが大きすぎる話題だった。
貴族たちの会話の中心は、ここ数日ずっとその話題だったのだ。
だからこそ、
学生たちも皆知っている。
そして今――
その事件の中心人物が、
目の前を歩いている。
レティシア・アルヴェルン。
静かに歩くその姿を、誰もが目で追っていた。
好奇心。
驚き。
尊敬。
そして、わずかな恐れ。
噂の中の人物が、
今、目の前にいる。