悪役令嬢は世界のバグを修正する
学園の庭を抜け、石畳の道を進む。
レティシアの歩調は、ゆっくりとしていた。
急ぐ様子もなく、周囲を気にする様子もない。
しかし、その周囲ではざわめきが止まらない。
視線。
小声の会話。
振り返る学生たち。
どこへ行っても、注目が集まる。
まるで彼女の周囲だけ、空気が少し違うかのようだった。
だが――
当のレティシアは、そんな様子をまったく意に介していない。
彼女はただ前を向き、静かに歩いている。
背筋を伸ばし、いつも通りの落ち着いた歩き方で。
少しして。
レティシアは周囲の声に耳を傾けた。
「本当にあの人?」
「舞踏会で……」
「証拠を全部崩したって……」
噂話。
同じ話題が、あちこちから聞こえてくる。
レティシアはわずかに目を細めた。
そして、小さく息を吐く。
「……騒がしいわね」
その呟きは、誰に向けたものでもない。
ただ、独り言のように零れた言葉だった。
声はとても静かで、感情の揺れもない。
驚きも、困惑も、苛立ちもない。
まるで、
他人の話を聞いているかのような態度。
舞踏会で起きた出来事。
それは確かに大きな事件だった。
だがレティシアにとっては、
ただ事実を説明し、
誤解を解いただけの出来事に過ぎない。
周囲の反応の方が、むしろ過剰に感じられる。
彼女は少しだけ肩をすくめた。
(好きに噂すればいいわ)
噂は、やがて別の話題に移る。
貴族社会とは、そういうものだ。
だからこそ、
特別に気にする必要もない。
レティシアは足を止めることなく、校舎へと歩き続けた。
その背後では、まだざわめきが続いている。
だが彼女は振り返らない。
ただ静かに、
いつも通りの表情で、
王立アルカディア学園の朝を進んでいくのだった。