悪役令嬢は世界のバグを修正する
その光景を、遠くから見ている人物がいた。
校舎の前。
石造りの柱の影に、一人の老人が立っている。
長い白髪。
深い皺の刻まれた顔。
深緑の学園ローブ。
王立アルカディア学園の教師。
魔法学教授だった。
彼は腕を組みながら、静かに学生たちの様子を眺めている。
中心にいるのは――
レティシア・アルヴェルン。
学生たちに囲まれながらも、平然としている公爵令嬢。
先ほどの会話も、遠くから聞こえていた。
「事実を説明しただけよ」
その一言に、学生たちが固まった様子も。
教授は小さく笑う。
「……噂以上だな」
低い声で呟いた。
舞踏会の事件については、すでに学園にも報告が届いている。
それも、ただの噂ではない。
王宮からの正式な記録。
公開断罪。
証言の崩壊。
告発文の偽造。
そして――
論理的な反撃。
すべてが、詳細に記されていた。
教授はその報告書を思い出す。
証人の証言を一つずつ崩し、
証拠の矛盾を指摘し、
最後には告発そのものの信頼性を破壊した。
それは感情ではなく、
完全に論理で構成された反撃だった。
教授は目を細める。
貴族社会では、あまり見ないタイプの戦い方だ。
普通なら、
怒り。
感情。
あるいは家の権威。
そうした力が前面に出る。
だが、あの令嬢は違う。
感情を見せない。
声も荒げない。
ただ事実を並べ、
相手の論理を崩す。
教授は小さく頷いた。
「珍しいな」
そして、レティシアの背中を見つめながら言う。
「面白い生徒だ」
魔法学教授の瞳に、
わずかな興味が宿る。
王立アルカディア学園には、多くの優秀な学生がいる。
だが。
本当に面白い存在は、そう多くない。
その中で。
あの公爵令嬢は、少し特別に見えた。
教授は静かに笑う。
「さて……」
小さく呟く。
「君の実力も見てみたいものだ」
舞踏会で見せたのは、
論理の力。
だがここは学園。
そして彼は――
魔法学の教授。
次に明らかになるのは、
レティシア・アルヴェルンの
魔法の才能だった。