悪役令嬢は世界のバグを修正する
校舎へ続く道。
レティシアは静かに歩いていた。
周囲ではまだ学生たちの視線が続いている。
だが、彼女はそれを気にする様子もなく、普段通りの足取りで進んでいた。
そのときだった。
――ふっ。
視界が、わずかに揺れた。
ほんの一瞬。
瞬きほどの時間。
まるで空気の表面に、細いひびが入ったかのような違和感。
景色が、微かに歪む。
だが。
それはあまりにも短い現象だった。
周囲の学生たちは誰一人として気づいていない。
笑い声。
会話。
足音。
すべてが変わらず続いている。
しかし――
レティシアだけは、足を止めた。
石畳の上で立ち止まり、ゆっくりと周囲を見る。
「……?」
小さな声が漏れる。
誰にも聞こえないほどの、わずかな呟き。
彼女は空を見上げた。
王都の朝空。
澄んだ青。
白い雲がゆっくり流れている。
何も異常はない。
どこまでも、普通の景色だった。
だが。
レティシアの表情は、わずかに曇る。
(……また)
胸の奥で、静かな思考が動く。
舞踏会の夜。
あのとき見たもの。
視界に現れた赤い文字。
――SYSTEM ERROR
――WORLD CODE FAILURE
誰にも見えていなかった。
あれは、確かに自分だけが見た。
そして今。
ほんのわずかだが、
同じような違和感が起きた。
レティシアはもう一度、空を見上げる。
青空は変わらない。
世界は、何も起きていないように動いている。
学生たちは歩き、
教師は話し、
学園の朝はいつも通り流れている。
だが。
彼女の胸の奥には、確かな感覚が残っていた。
世界の奥で、
何かが
まだ動いている。
レティシアは静かに息を吐く。
そして再び歩き出した。
表情はいつも通り冷静だった。
しかし、その思考の奥では、
一つの確信が芽生え始めていた。
舞踏会の夜に見た
世界のエラー。
それは、
まだ終わっていない。