悪役令嬢は世界のバグを修正する
――ゴーン。
深く澄んだ鐘の音が、学園中に響き渡った。
王立アルカディア学園の朝の鐘。
授業開始を告げる音だった。
広い校庭にいた学生たちが、一斉に動き出す。
令嬢たちはスカートを整えながら校舎へ向かい、
子息たちは友人と話しながら歩き出す。
石畳の道に、次々と足音が重なった。
「急げよ」
「最初の授業は魔法学だろ」
「教授、遅刻にうるさいからな」
学生たちの声が、あちこちで聞こえる。
やがて人の流れは自然と校舎へと向かっていった。
その流れの中に、レティシアの姿もある。
彼女もまた歩き出していた。
落ち着いた足取り。
背筋を伸ばし、いつも通りの静かな表情。
ただ校舎へ向かうだけの姿だった。
しかし――
その背中を、多くの視線が追っている。
学生たちは、彼女の姿をちらちらと見ながら小声で話していた。
「……あの人」
「舞踏会の令嬢だろ」
「断罪を覆したっていう」
「今年の学園……」
誰かがぽつりと呟く。
「何か起きそうだな」
その言葉に、周囲の学生たちが苦笑する。
だが、どこかで皆同じことを感じていた。
今年の学園は、
いつもと少し違う。
その中心にいるのは、
間違いなくあの公爵令嬢だ。
そして。
校舎の入り口近く。
柱の影から、その光景を見ている人物がいた。
白髪の老人。
深緑のローブ。
魔法学教授。
彼はレティシアの後ろ姿をじっと見つめていた。
舞踏会の報告書。
学生たちの噂。
そして先ほどの態度。
すべてを思い返しながら、小さく呟く。
「さて」
その声は、誰にも聞こえない。
教授はゆっくりと微笑んだ。
「君の実力を見せてもらおう」
彼の視線の先では、
レティシアが校舎の扉をくぐっていく。
次に始まるのは――
魔法学の授業。
王立アルカディア学園でも、最も重要とされる講義。
そしてその授業で、
レティシア・アルヴェルンの
本当の才能が、
初めて学園に知られることになる。
静かな学園の朝。
だがその裏で、
新しい物語が動き始めていた。