悪役令嬢は世界のバグを修正する
王立アルカディア学園。
その広大な敷地の一角に、魔法演習場がある。
石造りの巨大な屋外訓練場。
高い壁に囲まれた円形の空間で、中央には巨大な魔法陣が刻まれていた。
幾何学模様のように広がる線。
古代文字。
複雑に重なる円環。
この魔法陣は、魔法の暴走を抑制するためのものだ。
さらにその外側には、等間隔に立つ石柱が並んでいる。
結界柱。
演習場全体に防護結界を張り巡らせる装置である。
学生の魔法が暴走しても、外へ被害が出ないよう設計されていた。
王立アルカディア学園。
貴族子女のための最高学府。
当然ながら、魔法教育も王国最高水準だった。
演習場の中央には、学生たちが整列している。
男子も女子も、貴族の子息と令嬢。
制服のローブが風に揺れていた。
今日の授業は――
魔法実技。
生徒たちの間で、小さなざわめきが起こる。
「今日は実技か」
金髪の男子生徒が小声で言う。
隣の生徒が頷いた。
「たぶん制御試験だろ」
「うわ……」
後ろにいた令嬢が顔をしかめる。
「難しいんだよな、あれ」
魔法実技の中でも、
魔力制御試験は特に厳しい。
単純に魔法を出すだけなら、ある程度の魔力があれば誰でもできる。
だが。
魔法を正確に操ることは別だ。
魔力量が多くても、
制御を誤れば暴走する。
火球が爆発する。
風刃が曲がる。
水流が暴れる。
貴族教育において最も重要なのは、
魔力制御。
だからこそ、この試験は学生たちにとって厄介だった。
学生の一人がため息をつく。
「昨日もっと練習すればよかった……」
別の生徒が苦笑する。
「今さら遅いだろ」
ざわめく学生たち。
その中で、
一人の令嬢だけは静かに立っていた。
長い銀髪。
整った姿勢。
冷静な瞳。
レティシア・アルヴェルン。
公爵家の令嬢。
舞踏会事件以来、
学園中の注目を集めている人物。
しかし本人は周囲の会話に興味を示さない。
ただ静かに演習場を見渡していた。
中央の魔法陣。
結界柱。
訓練用標的。
すべてを観察するように。
そして小さく思う。
(魔力制御試験……)
その言葉に、
わずかな興味が浮かんだ。