悪役令嬢は世界のバグを修正する
学生たちのざわめきが少しずつ収まっていく。
その前へ、
一人の老人がゆっくりと歩み出た。
白髪の老教授。
背筋は年齢のわりにまっすぐで、深い皺の刻まれた顔には鋭い知性が宿っている。
王立アルカディア学園の魔法学教授。
アルドリック教授。
長いローブの袖を整えながら、演習場の中央に立つ。
彼の視線が学生たちを一人ずつ見渡した。
それだけで、空気が引き締まる。
ざわめいていた学生たちが自然と口を閉じた。
アルドリック教授はゆっくりと口を開く。
「今日は――」
少し間を置く。
そしてはっきりと言った。
「魔力制御試験です」
その言葉に、学生たちの間に緊張が走る。
小さなざわめき。
「やっぱりか……」
「制御試験……」
「苦手なんだよな」
誰かが小さくため息をついた。
アルドリック教授は気にした様子もなく続ける。
「今回測るのは、魔力量ではありません」
学生たちの視線が教授へ集まる。
教授は指を一本立てた。
「測定するのは――」
「制御精度です」
魔法陣の中央を指し示す。
「魔法とは、ただ魔力を放てばよいものではない」
穏やかな声だが、言葉には重みがあった。
「魔力量が多くても、制御できなければ意味はない」
学生たちは黙って聞いている。
教授は続けた。
「魔法は道具だ」
「だが制御を誤れば――」
「凶器になる」
演習場の周囲に立つ結界柱を軽く示す。
「火球は爆発し」
「風刃は軌道を外れ」
「水流は制御不能になる」
実際に起きた事故を思い出したのか、数人の学生が顔をしかめた。
アルドリック教授は静かに結論を述べる。
「だからこそ」
「貴族の魔法教育では」
「制御能力が最も重要とされる」
王国の貴族にとって、魔法は力であり責任でもある。
力を誤れば、街を焼き、人を傷つける。
だからこそ。
魔力よりも、
才能よりも、
まず求められるのは
正確な制御。
教授はゆっくりと学生たちを見渡す。
「では――」
「順番に始めましょう」
その言葉と共に、
魔法実技試験が始まった。