悪役令嬢は世界のバグを修正する
魔法実技試験が始まった。
演習場の中央。
円形の魔法陣の上に、一人ずつ学生が立つ。
周囲には訓練用の標的。
石製の人形や、防御結界の張られた的が並んでいた。
アルドリック教授が名簿を見ながら言う。
「では、順番に」
「基本魔法で構いません」
学生たちが小さく頷く。
基礎魔法。
この試験では、複雑な魔法は必要ない。
重要なのは
どれだけ正確に制御できるか。
最初の学生が前に出た。
男子生徒。
緊張した様子で杖を構える。
「……イグニス」
詠唱。
その瞬間、彼の手の前に小さな炎が生まれる。
火球。
炎はすぐに膨らみ、
拳ほどの大きさになる。
生徒はそれを標的へ向けて放った。
火球はまっすぐ飛び、
石の標的に命中。
小さく爆ぜた。
成功。
周囲の学生がほっと息を吐く。
だが。
アルドリック教授は静かに言った。
「魔力過剰」
生徒が固まる。
教授は続ける。
「火球の規定サイズは掌大だ」
「今のは拳大」
「威力は上がるが、制御精度が落ちる」
男子生徒は気まずそうに頭を下げた。
「次」
別の学生が前に出る。
今度は風属性の魔法。
女子生徒が詠唱する。
「ヴェント」
空気が揺れ、
薄い刃のような風が生まれた。
風刃。
それが鋭く飛ぶ。
標的へ向かって一直線――
しかし。
途中でわずかに軌道がぶれる。
風刃は標的の端をかすめて消えた。
惜しい。
だが完璧ではない。
アルドリック教授が言う。
「制御不足」
女子生徒が悔しそうに唇を噛む。
教授は冷静に続ける。
「魔力の流れが揺れている」
「発動時に集中が切れたな」
女子生徒は小さく頭を下げた。
実技はそのまま続く。
水球を作る者。
小さな火花を飛ばす者。
風を起こす者。
魔法そのものは成功している。
さすがは王立アルカディア学園の学生。
基本魔法を失敗する者はいない。
だが。
完璧な制御となると話は別だった。
火球が少し大きい。
水球が少し歪む。
風が少し揺れる。
どこかに必ず小さな乱れがある。
アルドリック教授はそれを一つ一つ指摘していく。
「魔力の揺らぎ」
「出力過剰」
「制御遅延」
学生たちは必死に魔法を操るが、
理想的な精度には届かない。
王国最高の学園。
貴族のエリート。
それでも――
完全な魔力制御は難しい。
魔法とは、それほど繊細な技術だった。