悪役令嬢は世界のバグを修正する
実技試験は静かに続いていた。
学生たちが一人ずつ魔法陣の中央に立ち、
基礎魔法を発動させる。
火球。
風刃。
水球。
どれも大きな失敗はない。
だが、完璧でもない。
演習場には、少しずつ緊張した空気が漂い始めていた。
その時。
アルドリック教授が名簿に目を落とし、次の名前を呼ぶ。
「――レティシア・アルヴェルン」
一瞬。
演習場の空気が変わった。
学生たちの間にざわめきが広がる。
「レティシア様?」
「公爵令嬢の……」
「舞踏会のあの人だろ」
多くの学生が振り向いた。
視線が一斉に一人の令嬢へ向けられる。
長い銀髪。
整った姿勢。
落ち着いた雰囲気。
レティシア・アルヴェルン。
王国でも有数の名門、
アルヴェルン公爵家の令嬢。
そして――
つい先日、
王城の舞踏会で起きた事件の中心人物。
王太子による断罪。
その場で証言と証拠を崩し、
断罪そのものを覆した令嬢。
貴族社会では、すでにその話が広がっていた。
学生たちが小声で囁き合う。
「断罪を覆した人だ」
「本当に論破したのか?」
「証拠を全部崩したって聞いた」
別の学生が興味深そうに言う。
「でも魔法はどうなんだ?」
「公爵令嬢ってだけじゃないのか?」
誰かが言う。
「どんな魔法使うんだ?」
ざわめきの中心で、
レティシアは静かに立っていた。
周囲の視線も、
噂話も、
まるで気にしていない。
ただ名前を呼ばれたことに気づき、
一歩前に出る。
ローブの裾がわずかに揺れる。
石畳の上を、
ゆっくりと歩く。
そして。
魔法陣の中央へ。
学生たちの視線がさらに集まる。
興味。
好奇心。
疑問。
そのすべてを浴びながら、
レティシアは足を止めた。
表情は変わらない。
落ち着いた瞳。
まるで、
ただの授業の順番が来ただけのように。
アルドリック教授が静かに言う。
「では」
「始めなさい」
レティシアは小さく頷いた。