悪役令嬢は世界のバグを修正する
講義室は静まり返っていた。
アルドリック教授は講義台の前に立ち、黒板に手を伸ばす。
白いチョークが石板に触れる音が、静かな教室に響いた。
キィ、と乾いた音。
教授はゆっくりと文字を書く。
古代魔法文明
大きく書かれたその言葉を見て、学生たちは顔を見合わせた。
アルドリック教授が振り返る。
「今日の講義は――」
「古代魔法についてです」
学生たちの間に小さなざわめきが広がる。
古代魔法。
それは魔法学において最も神秘的な分野の一つだった。
教授は静かに説明を始める。
「今から数千年前」
「この世界には、現在より遥かに高度な魔法文明が存在していたとされています」
黒板に簡単な図を描く。
古代都市。
魔法陣。
巨大な塔。
「古代の魔法使いたちは」
「我々が想像する以上の魔法技術を持っていた」
学生の一人が小さく呟く。
「今より?」
教授は頷いた。
「ええ」
「現在の魔法技術とは比べ物にならないほど高度だったと記録されています」
教室の空気が少し変わる。
学生たちが興味を示し始めた。
アルドリック教授は続ける。
「しかし」
そこで言葉を切る。
黒板に新しい線を引く。
「その文明は」
「ある時期を境に崩壊しました」
教室が静かになる。
「原因は不明」
「戦争だったのか」
「災害だったのか」
「あるいは別の理由か」
誰にも分からない。
ただ確かなことは一つ。
教授はゆっくりと言う。
「多くの知識が」
「失われた」
黒板に書かれた魔法式を指す。
「現在我々が使っている魔法体系は」
少し間を置いてから続けた。
「古代魔法の研究から生まれたものです」
つまり。
今の魔法は完全なものではない。
教授ははっきりと言った。
「現在の魔法体系は」
「古代魔法の断片に過ぎません」
その言葉に、
学生たちの間でざわめきが起こる。
「断片?」
「そんなに違うのか?」
「じゃあ古代魔法ってどれだけすごかったんだ?」
ざわざわとした声が広がる。
教室の空気は完全に引き込まれていた。
アルドリック教授はその反応を静かに見つめる。
そして、
次の話題へ進むように黒板へ新しい文字を書いた。