悪役令嬢は世界のバグを修正する
アルドリック教授は一度講義台の下へ手を伸ばした。
机の奥にしまわれていた木箱をゆっくりと引き出す。
箱は古く、金具も黒ずんでいる。
学生たちはそれを見てざわついた。
教授が箱の蓋を開く。
中から取り出されたのは――
一枚の石板だった。
黒い石。
掌よりも少し大きい。
しかし表面には無数の刻みが走っている。
それはただの傷ではない。
文字。
びっしりと刻まれた奇妙な記号。
曲線と直線が組み合わさった、黒板のルーンと同じ形。
古代ルーンだった。
学生たちが一斉に身を乗り出す。
「本物?」
誰かが驚いた声を上げる。
「遺跡の?」
「本当に古代の?」
教室の空気が一気に熱を帯びる。
アルドリック教授は石板を講義台の上に置いた。
石が机に触れる、鈍い音。
教授は静かに言う。
「これは」
「王国北部の遺跡から発見されたものです」
学生たちの目が輝く。
北部遺跡。
王国でも有名な古代魔法遺跡だ。
何度も調査が行われているが、
未解明の部分が多い場所。
教授は続ける。
「現在は学園の研究資料として保管されています」
つまり。
今、目の前にあるものは、
本物の古代遺物だった。
学生たちは興奮した様子で石板を見つめる。
「すごい……」
「本当にルーンだ」
「遺跡の文字……」
だが。
しばらく見つめても、
誰も何も言わない。
沈黙。
やがて一人の学生が呟いた。
「……分からない」
別の学生も苦笑する。
「全然読めない」
令嬢の一人が言う。
「ただの模様みたい」
石板のルーンは複雑だった。
意味があるはずなのに、
どこから読めばいいのかも分からない。
文字なのか。
図形なのか。
それすら判別できない。
教室の学生たちは、
ただその謎の石板を見つめることしかできなかった。