悪役令嬢は世界のバグを修正する
講義台の上に置かれた石板。
黒い石の表面には、びっしりと古代ルーンが刻まれている。
教室の学生たちは、その石板を食い入るように見つめていた。
アルドリック教授は腕を組み、静かに言う。
「試しに」
少し間を置く。
「読んでみなさい」
その言葉に、学生たちは顔を見合わせた。
「読めるわけ……」
小さく呟く声。
だが、興味を抑えきれない者も多い。
数人の学生が席を立ち、講義台の近くへ歩いていく。
石板を覗き込む。
刻まれたルーンをじっと見つめる。
しかし。
しばらく沈黙が続いたあと――
男子生徒が首をかしげた。
「……絵?」
教室の後ろから笑い声が少し漏れる。
別の学生が腕を組みながら言う。
「呪文じゃないのか?」
「魔法の詠唱とか」
しかしそれも自信がない声だった。
ルーンには単語らしい区切りがない。
文のような構造も見えない。
ただ複雑な記号が並んでいるだけだ。
令嬢の一人が少し困ったように言う。
「ただの模様に見えるわ」
曲線。
直線。
交差する線。
どこが文字なのかも分からない。
学生たちはしばらく石板を見つめていたが、
やがて一人、また一人と席へ戻っていく。
誰も何も理解できなかった。
当然だった。
古代ルーンの解読は、
魔法学の最大の謎の一つ。
世界中の魔法研究者が
何百年も研究している。
それでも。
完全な解読には至っていない。
王立アルカディア学園の学生とはいえ、
それはあまりにも難しい問題だった。
教室には再び静かな空気が流れる。
そして、
まだ石板を見つめている一人の人物がいた。
レティシアだった。