悪役令嬢は世界のバグを修正する
レティシアの名前が呼ばれる前。
試験はまだ続いていた。
試験官が次の紙をめくる。
「次」
少しだけ声の調子が変わる。
「カイル・ヴァルグレイ」
その名前が響いた瞬間、
演習場の空気がわずかに動いた。
学生たちがざわめく。
「来た」
「優勝候補」
「去年準優勝だろ」
列の中から、
一人の男子学生が前に出る。
高い身長。
鍛えられた体。
迷いのない歩き方。
カイル・ヴァルグレイ。
侯爵家の嫡男。
学園でもトップクラスの実力者。
カイルは水晶球の前に立つ。
試験官が言う。
「魔力測定」
カイルは無言で手をかざした。
次の瞬間。
水晶球が強く光る。
眩しいほどの輝き。
だが揺れない。
安定している。
教師の一人が頷く。
「高いな」
別の教師。
「しかも安定している」
記録係が数値を書き込む。
周囲の学生が小声で言う。
「やっぱり強い」
「魔力量トップクラスだ」
次。
「制御試験」
標準火球。
カイルが短く詠唱する。
炎が生まれる。
大きい。
だが暴れない。
綺麗な球体。
そのまま前へ放つ。
一直線。
結界の中心に命中。
爆発も乱れもない。
試験官が言う。
「良い」
教師が腕を組む。
「制御も上位だな」
観客席から声。
「さすがヴァルグレイ家」
「騎士団向きだ」
次。
「命中試験」
空中に標的が現れる。
高速で移動する球体。
普通なら当てるだけでも難しい。
カイルは詠唱を短縮する。
炎弾を放つ。
一発。
命中。
二発。
命中。
三発。
中心直撃。
標的が消える。
試験官が小さく息を吐いた。
「……合格」
記録係が数値を並べる。
魔力 高評価
制御 高評価
命中 満点近い
安定 高評価
総合スコア表示。
現在1位。
観客席がざわめく。
「おお」
「やっぱりな」
「優勝候補だ」
教師が言う。
「優秀だ」
別の教師も頷く。
「今年も本命だな」
観察席の騎士団関係者が小声で話す。
「即戦力だ」
「推薦候補だな」
カイルは表示を見て、
小さく笑った。
予想通り。
満足そうに肩を回す。
そして列に戻る途中、
ふと視線を横に向けた。
次に呼ばれる名前の列。
そこに、
レティシアが立っている。
表情は変わらない。
静か。
まるで興味がないような顔。
カイルは一瞬だけ目を細めた。
(公爵令嬢……)
少しだけ口元が上がる。
(どれくらいだ)
その時、
試験官が次の紙をめくる。
そして読み上げる。
「次」
わずかな間。
空気が張り詰める。
「レティシア・アルヴェルン」