悪役令嬢は世界のバグを修正する
カイルの試験が終わった後も、
予選は続いていた。
演習場の空気はさらに緊張している。
上位候補が次々に呼ばれていくからだ。
試験官が次の名前を読む。
「リオネル・グランツ」
観客席がざわめく。
「研究科だ」
「魔法特化のやつだろ」
列の中から、
細身の男子学生が前に出た。
王立学園・魔法研究科。
通常の学生よりも、
魔法理論と実験に特化した課程。
リオネルは水晶球に手をかざす。
光が強く輝く。
だがカイルほどではない。
試験官が言う。
「高いな」
制御試験。
火球を生成。
形は美しい。
揺れも少ない。
結界に当てる。
正確。
教師が頷く。
「制御は上級だ」
命中試験。
三発。
二発命中。
一発外れ。
記録係が数値を書く。
総合スコア。
上位。
だが一位ではない。
観客席。
「惜しいな」
「優秀だけど決め手がない」
次。
「エドガー・ラウル」
上級貴族。
戦闘魔法特化。
筋肉質の男子学生が出てくる。
魔力測定。
かなり高い。
制御試験。
火球が大きい。
だが少し揺れる。
試験官。
「魔力過多」
命中試験。
二発命中。
一発外れ。
総合スコア。
高い。
だがトップではない。
また別の学生。
上級生。
騎士団志望。
安定している。
だが満点ではない。
試験が進むたび、
観客席の空気が変わっていく。
期待。
評価。
計算。
教師たちも真剣な顔になる。
記録表を見ながら、
一人の教授が小さく呟いた。
「今年は粒が揃っているな」
隣の教師が答える。
「確かに」
「上位は例年より高い」
少し間を置く。
そして、
記録表をもう一度見る。
「だが……」
眉をひそめる。
「満点は出ないか」
その言葉に、
近くの教師が頷いた。
「理論上は可能だが」
「実際には出ない」
「どこかで必ず崩れる」
魔力。
制御。
命中。
安定。
すべてを最高にするのは難しい。
王立学園でも、
満点は滅多に出ない。
観察席。
王宮魔法研究所の観察官が静かに言う。
「今年も記録更新はなしか」
騎士団関係者も頷く。
「カイルが最高だろう」
「優勝候補だ」
演習場の中央。
記録表示には、
現在1位の名前。
カイル・ヴァルグレイ。
その下に、
上級生たちの名前が並ぶ。
どれも高得点。
だが、
満点はない。
その時。
試験官が次の紙を見る。
一瞬だけ、
手が止まった。
そして、
名前を読む。
「次」
空気が変わる。
ほんの少しだけ。
「レティシア・アルヴェルン」
観客席がざわめいた。
誰かが小さく言う。
「……来た」
教授の一人が、
記録表を閉じながら呟く。
「満点は出ない」
そう言いかけて、
ふと口を止める。
視線の先。
前に歩き出す一人の令嬢。
静かな足取り。
焦りもない。
誇りもない。
ただ自然に立つ。
その姿を見て、
教授はなぜか言葉を飲み込んだ。
心の奥で、
わずかな違和感が生まれる。
(……いや)
理由は分からない。
だが、
ほんの一瞬だけ思った。
(もしかすると)