悪役令嬢は世界のバグを修正する
試験官が次の紙をめくる。
一瞬だけ、
その動きが止まった。
そして、
はっきりと名前を読み上げる。
「次」
静まり返った演習場に、
声が響く。
「レティシア・アルヴェルン」
その瞬間、
空気が変わった。
ざわめきが広がる。
学生たちが一斉に振り向く。
「来た…」
「公爵令嬢」
「例の天才だろ」
「舞踏会の……」
「ルーン読んだっていう」
観客席もざわつく。
教師たちも顔を上げる。
記録係の手が止まる。
王宮魔法研究所の観察官も、
静かに視線を向けた。
列の中から、
レティシアが歩き出す。
いつも通りの歩き方。
焦りもない。
緊張もない。
ただ自然に前へ出る。
その姿を見て、
誰かが小さく呟く。
「……本当に出るんだな」
カイルが腕を組んだまま、
目だけを動かす。
レティシアを見る。
表情は変わらない。
だが目は鋭い。
(どれだけだ)
優勝候補としての本能。
強い相手を測ろうとする視線。
観客席。
セシリアが静かに座っている。
妹の姿を見て、
ふっと微笑んだ。
隣の令嬢が小声で聞く。
「余裕ですね…」
セシリアは肩をすくめる。
「だって」
小さく笑う。
「普通にやるだけでしょ」
演習場の中央。
レティシアが水晶球の前に立つ。
試験官が言う。
「準備を」
レティシアは軽く頷く。
その時だった。
視界の端が、
わずかに揺れた。
ほんの一瞬。
赤い点滅。
誰にも見えない表示。
SYSTEM EVENT ACTIVE
次の瞬間、
消える。
音もなく。
痕跡もなく。
レティシアの指先が、
ほんのわずかに止まった。
だがすぐに、
何もなかったように前を見る。
(やっぱり……)
胸の奥で思う。
大会。
試験。
順位。
評価。
全部、
流れがある。
(イベント……)
静かに目を細める。
(今、進行中)
試験官の声が響く。
「魔力測定を開始する」
レティシアは、
ゆっくりと水晶球に手を伸ばした。