悪役令嬢は世界のバグを修正する
演習場の中央。
巨大な水晶球が、
淡い光を放っている。
予選最初の試験。
魔力測定。
水晶に触れた者の魔力量を読み取り、
同時に制御状態も測定する装置。
普通の学生なら、
触れた瞬間に光る。
魔力が多ければ強く光る。
だが――
魔力が不安定なら揺れる。
制御が甘ければ暴れる。
だからこの試験は、
ただの魔力量測定ではない。
試験官が言う。
「水晶に手を」
レティシアは軽く頷いた。
ゆっくりと、
右手を伸ばす。
周囲が静まり返る。
観客席も、
学生の列も、
教師たちも、
全員が見ている。
噂の公爵令嬢。
舞踏会の中心人物。
古代ルーンを理解した生徒。
その手が、
水晶に触れた。
次の瞬間。
光が弾けた。
まぶしいほどの輝き。
観客席から声が上がる。
「強い!」
「すご…」
だが、
それだけでは終わらなかった。
光が、
揺れない。
まったく揺れない。
普通なら、
強く光るほど不安定になる。
だが違う。
水晶は最大輝度のまま、
完全に静止している。
まるで固定された光。
記録係が思わず顔を上げた。
教師の一人が眉をひそめる。
「……?」
別の教師が前に出る。
表示を確認する。
数値が出ている。
最大値。
だが。
警告なし。
揺らぎなし。
誤差なし。
教師が小さく呟いた。
「おかしい」
試験官が低い声で言う。
「魔力は最大クラスだ」
少し間を置く。
「だが……」
もう一度表示を見る。
「制御誤差ゼロ?」
周囲がざわめく。
学生たちが顔を見合わせる。
「ゼロ?」
「そんなことある?」
「強いほど揺れるだろ普通」
観客席でも動きが起きる。
騎士団関係者が身を乗り出す。
研究所の観察官が目を細める。
教師が低く言った。
「……完全制御だ」
別の教師。
「いや」
首を振る。
「理論値だ」
理論上は可能。
だが実際には出ない。
出たことがない。
水晶球は、
最大の光を保ったまま、
静かに輝いている。
まるで、
最初からそう設計されていたかのように。
試験官がゆっくり言う。
「異常はないか確認」
記録係が震える声で答える。
「……異常なし」
沈黙。
演習場が静まり返る。
中央に立つレティシアだけが、
何事もなかったように手を離した。
光が消える。
試験官が彼女を見る。
「……次へ進め」
声がわずかに低い。
レティシアは頷くだけ。
表情は変わらない。
だがその時。
視界の端に、
赤い文字が一瞬だけ浮かんだ。
POWER CHECK COMPLETE
すぐ消える。
レティシアの瞳が、
ほんのわずかに細くなる。
(やっぱり……)
心の奥で思う。
(測定イベント)