悪役令嬢は世界のバグを修正する
魔力測定が終わっても、
演習場のざわめきは収まらなかった。
最大値。
しかも揺らぎなし。
教師たちでさえ、
まだ表示を見直している。
だが試験は止まらない。
試験官が言う。
「次」
「制御試験を行う」
中央の魔法陣が光る。
前方に、
制御確認用の結界枠が展開された。
直径三メートルほどの透明な円。
この中で魔法を生成し、
形状と安定性を測定する。
試験官が説明する。
「標準火球を生成せよ」
「大きさは任意」
「制御精度を評価する」
学生たちが小声で話す。
「ここが一番難しい」
「強いほど揺れるからな」
「さっきの魔力だと暴れそうだ」
観客席の教師も頷く。
「魔力が多いほど不利だ」
「制御が追いつかない」
試験官がレティシアを見る。
「準備を」
レティシアは軽く頷いた。
一歩前に出る。
結界枠の中央。
静かに目を閉じる。
そして、
小さく詠唱した。
「Ignis」
短い。
あまりにも短い詠唱。
学生たちがざわめく。
「短っ」
「それだけ?」
普通はもっと長い。
安全のために、
制御のために、
詠唱は長くなる。
だがレティシアは違う。
次の瞬間。
彼女の手の上に、
火が生まれた。
火球。
だが。
誰も言葉を出せなかった。
炎が揺れていない。
膨張もしない。
収縮もしない。
完全な球体。
まるで、
削り出された彫刻のような火。
結界の光が、
その形をはっきり映す。
教師の一人が思わず前に出る。
「……何だこれは」
試験官も目を細める。
火球は、
空中に静止している。
わずかな揺れもない。
普通なら、
炎は必ず揺らぐ。
魔力の波が出る。
だがそれがない。
完全な安定。
レティシアは手を軽く動かした。
火球がゆっくり前へ進む。
直線。
ぶれない。
そのまま結界の中心へ。
接触。
消える。
爆発なし。
乱れなし。
完璧な終了。
沈黙。
演習場全体が静まり返る。
教師の一人が、
震える声で言った。
「……揺らぎゼロ」
別の教師が記録を確認する。
「制御誤差……なし?」
アルドリック教授が立ち上がる。
目を細め、
火球の消えた場所を見る。
そして、
小さく呟いた。
「理論値……」
その言葉が、
静かに広がる。
観客席がざわめく。
「理論値?」
「そんなの出るのか?」
「見たことないぞ」
騎士団関係者が低く言う。
「実戦でもあれは使える」
研究所の観察官がメモを書く。
「制御精度、異常」
中央に立つレティシアは、
何も変わらない顔で立っている。
まるで、
普通に火球を出しただけのように。
その時。
彼女の視界に、
一瞬だけ赤い文字が浮かんだ。
CONTROL TEST CLEAR
すぐ消える。
レティシアの瞳が、
ほんのわずかに細くなる。
(やっぱり……)
胸の奥で思う。
(イベント進行中)