悪役令嬢は世界のバグを修正する
制御試験が終わったあとも、
演習場の空気は張り詰めたままだった。
教師たちは無言。
観客席もざわめいたまま静まらない。
だが試験官は手順を崩さない。
低い声で告げる。
「次」
「命中試験を行う」
前方の魔法陣が再び光る。
空中に複数の光球が出現した。
標的。
直径二十センチほどの球体。
ゆっくり動き始める。
そして次の瞬間、
速度が上がった。
左右に。
上下に。
不規則に。
高速移動。
学生たちが息を呑む。
「速っ」
「これ当てるの無理だろ」
「上級でも外すやつだぞ」
試験官が説明する。
「標的は三つ」
「命中率、反応速度、魔力効率を測定する」
教師が小声で言う。
「ここで差が出る」
「制御が良くても当たらん」
試験官がレティシアを見る。
「開始」
レティシアは少しだけ標的を見た。
動きを追う。
軌道を読む。
そして、
手を軽く上げる。
詠唱はない。
唇も動かない。
ほんのわずかに指先が動く。
次の瞬間。
火の弾が生まれた。
小さい。
普通の火球よりはるかに小さい。
学生が思わず言う。
「小さ…」
火弾が飛ぶ。
一発目。
標的の中心に命中。
光球が弾けて消える。
ざわめき。
二つ目の標的が急加速する。
レティシアの指先が動く。
二発目。
命中。
完全な中心。
教師が目を見開く。
「早い…」
最後の標的。
最も速い。
不規則に動く。
普通なら外す。
レティシアは一瞬だけ目を細めた。
指がわずかに動く。
三発目。
命中。
中心直撃。
標的が消える。
沈黙。
誰も声を出さない。
あまりにも自然に終わった。
試験官が測定装置を見る。
表示が出ている。
命中率 100%
反応速度 最高評価
魔力消費 ――
試験官の眉が動いた。
もう一度見る。
記録係が震える声で言う。
「……魔力消費が……」
教師が聞き返す。
「どうした」
記録係。
「通常の……三分の一です」
ざわめきが広がる。
「は?」
「三分の一?」
「そんなわけ…」
教師が装置を覗き込む。
数値は変わらない。
誤差もない。
測定装置が自動で音を出す。
ピッ
表示が切り替わる。
EFFICIENCY ERROR
EFFICIENCY ABNORMAL
効率異常。
教師の一人が思わず言った。
「……ありえん」
別の教師。
「命中も完璧で」
「魔力も最小?」
アルドリック教授が低く呟く。
「制御だけじゃない」
「効率まで理論値か」
観客席が大きくざわめく。
「何だ今の」
「全部当てたぞ」
「しかも魔力少なすぎだろ」
騎士団関係者が立ち上がる。
研究所の観察官が急いでメモを書く。
中央に立つレティシアは、
何もなかったように手を下ろした。
試験官の声が少しだけ低くなる。
「……次へ」
その瞬間。
レティシアの視界に、
赤い文字が一瞬だけ浮かんだ。
TARGET TEST CLEAR
EFFICIENCY MAX
すぐ消える。
レティシアは小さく息を吐く。
(やっぱり……)
胸の奥で思う。
(スコア計算されてる)