悪役令嬢は世界のバグを修正する
命中試験が終わると、
演習場には重い沈黙が落ちた。
誰もすぐには声を出せなかった。
試験官も、
教師も、
記録係も、
全員が測定装置を見ている。
レティシアは中央に立ったまま、
静かに待っていた。
試験官が言う。
「……総合評価を表示」
魔法陣が光る。
空中に大きな表示板が現れる。
全員の視線がそこに集まる。
ゆっくりと文字が並ぶ。
魔力 評価:最高
制御 評価:最高
命中 評価:最高
安定性 評価:最高
一瞬、
誰も意味を理解できなかった。
次の瞬間。
表示が切り替わる。
総合スコア
満点
沈黙。
試験官の目が止まる。
教師の一人が思わず声を出した。
「満点……?」
記録係が慌てて資料を確認する。
紙をめくる。
装置を見る。
もう一度確認する。
そして、
震える声で言った。
「間違いありません」
少し息を吸う。
「学園記録……更新です」
その瞬間、
演習場が揺れた。
観客席が一斉にざわめく。
「満点!?」
「初めてじゃないか!?」
「全部最高評価だぞ!」
「ありえないだろ!」
教師たちも動揺している。
「理論値だ」
「全部理論値だ」
「こんな結果……」
騎士団関係者が低く言う。
「欲しいな」
研究所の観察官が真剣な顔で記録を書く。
「魔力・制御・効率・安定」
「全項目最高」
「異常個体」
列の中。
カイルが表示を見て固まっていた。
目を見開く。
自分の順位の上。
名前が一つ。
レティシア・アルヴェルン。
カイルが小さく呟く。
「……嘘だろ」
拳を握る。
だが、
悔しさより先に出たのは驚きだった。
(あれが……本気か)
観客席。
セシリアが静かに笑っている。
隣の令嬢が呆然とする。
「すご……」
セシリアは肩をすくめる。
「だから言ったでしょ」
小さく微笑む。
「あの子、普通じゃないのよ」
演習場の中央。
レティシアだけが変わらない。
歓声も、
ざわめきも、
驚きも、
すべて他人事のように聞いている。
試験官が言う。
「……以上で予選を終了する」
だが声に重みがない。
視線はレティシアから離れない。
その時。
レティシアの視界が、
わずかに揺れた。
赤い文字。
一瞬だけ浮かぶ。
SYSTEM SCORE UPDATED
RANKING FIXED
EVENT PROGRESS
すぐ消える。
誰にも見えない。
レティシアの瞳が、
ほんの少しだけ細くなる。
胸の奥で、
静かに確信が形になる。
(やっぱり……)
視線を上げる。
空。
結界の向こうの空。
何もないはずなのに、
どこか不自然に感じる。
(これ……)
小さく思う。
(イベントだ)
大会。
試験。
順位。
評価。
全部、
流れが決まっている。
そして今、
その流れの中にいる。
レティシアはゆっくり目を閉じた。
(次は……)
心の奥で、
かすかな予感が生まれる。
(本戦)