悪役令嬢は世界のバグを修正する
王立アルカディア学園・大演習場。
午後の光が結界に反射し、
競技フィールドが白く輝いていた。
本戦トーナメントも終盤。
観客席は朝よりも人が増えている。
教師だけではない。
騎士団関係者。
王宮魔法研究所の観察官。
貴族の来賓。
学園の大会とは思えないほど、
空気が張り詰めていた。
中央の掲示板に、
新しい文字が浮かび上がる。
準決勝 組み合わせ発表
ざわめきが広がる。
学生たちが一斉に立ち上がる。
「出た!」
「準決勝だ!」
「誰が残った!?」
表示が一行ずつ現れる。
第一試合
レティシア・アルヴェルン
対
カイル・ヴァルグレイ
一瞬、
誰も声を出さなかった。
次の瞬間、
演習場が揺れるほどのざわめきが起きた。
「来た……」
「マジか」
「カイル対レティシアだ!」
「早すぎるだろ!」
「これ決勝カードだろ!」
「事実上の決勝じゃないか!」
観客席でもどよめきが広がる。
騎士団席。
一人が腕を組んで言う。
「面白い組み合わせだ」
別の騎士が答える。
「今年の本命同士だな」
「どっちが勝つ?」
少し間。
「……読めん」
研究所席。
観察官が静かに紙をめくる。
「対象同士の直接戦闘」
「これは貴重だ」
別の観察官。
「構造干渉が再現されるか」
低い声。
「確認したい」
教師席。
教授たちも掲示を見ている。
一人が言う。
「組んだな……」
別の教師。
「偶然か?」
アルドリック教授が静かに答える。
「違う」
視線を掲示に向けたまま。
「大会は実力順に進む」
「だからこうなる」
小さく呟く。
「必然だ」
フィールドの端。
カイルが掲示を見ていた。
名前が並んでいる。
自分の名。
そして。
レティシア・アルヴェルン。
目を細める。
ゆっくり息を吐く。
「……来たか」
拳を握る。
前の試合を思い出す。
魔法が崩れた瞬間。
理解できなかった。
だが。
目を閉じて、
静かに言う。
「次は勝つ」
観客席の反対側。
セシリアが掲示を見て笑っていた。
「やっぱりね」
隣の令嬢が聞く。
「何がですか?」
セシリアは肩をすくめる。
「この大会」
楽しそうに言う。
「ちゃんと盛り上がるように出来てるのよ」
その少し離れた場所。
レティシアが立っている。
掲示を見ている。
表情は変わらない。
驚きも、
緊張もない。
ただ、
少しだけ視線を動かす。
カイルの名前を見る。
心の中で思う。
(強い人…)
ほんの一瞬。
視界の端に、
赤い光が走る。
SYSTEM EVENT UPDATED
すぐ消える。
誰にも見えない。
レティシアのまぶたがわずかに動く。
胸の奥で、
小さく呟く。
(やっぱり……)
掲示を見る。
カイルの名前。
自分の名前。
並んでいる。
(イベントだ)
遠くで歓声が上がる。
演習場の空気が熱を帯びる。
物語が、
次の段階に進もうとしていた。