悪役令嬢は世界のバグを修正する
王立アルカディア学園・大演習場。
観客席は満員だった。
朝とは明らかに空気が違う。
教師だけではない。
騎士団の制服。
王宮魔法研究所の徽章。
貴族席には上位家門の姿も見える。
ざわめきは絶えないが、
どこか張り詰めている。
誰もが分かっている。
今回の試合は特別だと。
中央の競技フィールド。
巨大な結界柱が四方に立っている。
その中心に、
審判の教師が進み出た。
拡声魔法が起動する。
低く、よく通る声が響いた。
「これより――」
一瞬、場が静まる。
「準決勝第一試合を開始する」
歓声が上がる。
教師が名簿を見る。
「出場者」
少し間。
「カイル・ヴァルグレイ」
観客席が揺れた。
「おおおお!!」
「カイルだ!」
「優勝候補!」
「騎士団志望!」
フィールドの入口から、
カイルが歩いて出てくる。
堂々とした足取り。
視線は真っ直ぐ。
迷いはない。
結界の中央に立つ。
拳を握る。
闘志が空気に伝わる。
教師が続ける。
「レティシア・アルヴェルン」
今度は、
さらに大きなどよめきが起きた。
「来た!」
「満点の人!」
「構造壊したやつ!」
「本当にやるのか!?」
入口から、
レティシアが歩いてくる。
ゆっくり。
静かに。
いつもと同じ歩き方。
表情は変わらない。
歓声も、
ざわめきも、
まるで聞こえていないようだった。
フィールドの中央。
カイルと向かい合う。
しばらく無言。
カイルが先に口を開く。
「……やっとだな」
レティシアは少し首を傾げる。
「そう?」
その一言に、
カイルの口元がわずかに歪む。
「本気で来い」
レティシアは答えない。
ただ、
静かに相手を見る。
その目は、
戦う相手を見る目ではない。
観察する目だった。
教師が手を上げる。
「結界起動」
四方の柱が光る。
空気が震える。
透明な壁が張られる。
重い音が響いた。
観客席が静まり返る。
騎士団席。
一人が呟く。
「本気の結界だな」
研究所席。
観察官が記録具を構える。
「干渉が起きる可能性あり」
教師席。
アルドリック教授が腕を組む。
「見せてもらおう」
フィールド中央。
カイルが構える。
炎の魔力が揺れる。
空気が熱を帯びる。
レティシアは動かない。
ただ立っている。
静かに。
風が少しだけ揺れる。
教師の手が振り下ろされる。
「――開始!」
その瞬間、
空気が変わった。
カイルの目が鋭くなる。
魔力が爆発する。
準決勝。
本気の戦闘が、
始まった。