悪役令嬢は世界のバグを修正する
部屋には誰もいなかった。
さっきまでセシリアがいた応接室。
紅茶の香りだけが残っている。
テーブルの上には、
まだ開けていない招待状が並んでいた。
春の茶会。
夜会。
舞踏会。
令嬢会。
婚約候補会。
綺麗に積まれている。
レティシアは一人で椅子に座っていた。
静かに、
一枚の封筒を手に取る。
王都の名門の紋章。
金の縁。
重い紙。
ゆっくり開く。
中の招待状を取り出す。
文字を読む。
整った文章。
完璧な礼式。
どこにも間違いはない。
そのはずなのに。
紙が、
一瞬だけ歪んだ。
レティシアの手が止まる。
今、
曲がった気がした。
もう一度見る。
普通の紙。
普通の文字。
何もおかしくない。
でも、
視界の奥がざわつく。
ゆっくり瞬きをする。
その瞬間。
赤い線が走った。
視界の中央に、
文字が浮かぶ。
SYSTEM
一行だけ。
無機質な文字。
冷たい赤色。
レティシアの瞳が止まる。
呼吸がわずかに浅くなる。
次の文字が出るかと思った。
でも出ない。
そのまま、
表示は消えた。
まるで、
見間違いみたいに。
部屋は静か。
窓の外では鳥が鳴いている。
何も変わらない。
何も起きていない。
レティシアはしばらく動かなかった。
手の中の招待状を見つめたまま。
小さく息を吐く。
そして、
ほんの少しだけ目を伏せる。
心の中で思う。
(また…)
声には出さない。
出したくない。
でも分かる。
大会の時も出た。
ルーンを見た時も出た。
世界が揺れた時も出た。
そして今も出た。
理由は分からない。
意味も分からない。
でも、
確実に何かが動いている。
ゆっくり招待状をテーブルに置く。
指先が少しだけ震えている。
視界の奥がまだ落ち着かない。
小さく、
心の中で呟く。
(……世界が)
少し間。
(動いてる)
その瞬間、
紙の端がまた一瞬だけ揺れた気がした。
でも、
もう表示は出なかった。