悪役令嬢は世界のバグを修正する
年上令嬢が席へ戻ったあと、
茶会は何事もなかったかのように続いていた。
笑い声。
紅茶の香り。
庭園の風。
見た目だけなら、
完璧な社交の場。
だが。
レティシアの周囲だけ、
空気が少し違っていた。
誰も露骨には離れない。
けれど、
さっきまで近くにいた令嬢が、
別の席へ移る。
会話の輪が、
少しだけ遠くにできる。
話題が変わる。
誰もレティシアに振らない。
セシリアが軽く話しかける。
「このお菓子、美味しいわね」
「……そう」
短い。
その瞬間、
近くにいた令嬢が、
別の方向へ顔を向ける。
小さな声が聞こえる。
「……やっぱり」
「ちょっと変わってる」
別の声。
「怖いけど…」
「なんていうか」
「扱いにくいのよね」
さらに小さな声。
「干渉したって本当なの?」
「研究所が調べてるって」
「王宮も見てるとか…」
「関わらない方がいいわ」
「巻き込まれそう」
笑い声に紛れて、
ひそひそとした声が流れる。
誰も正面では言わない。
でも、
確実に距離ができていく。
レティシアは紅茶を持ったまま、
少しだけ視線を動かす。
全体を見る。
席の配置。
人の動き。
会話の輪。
誰が誰と話しているか。
どこに空間ができているか。
全部、
構造みたいに見える。
そして気付く。
自分の周りだけ、
空いている。
ほんの少し。
でも確実に。
レティシアの指が止まる。
心の中で思う。
(離れてる)
少し間。
(避けてる)
その瞬間、
視界が揺れる。
赤い表示。
SYSTEM
SOCIAL STATUS ↓
次の行。
ISOLATION ↑
さらに。
TARGET RISK ↑
一瞬で消える。
レティシアの呼吸がわずかに止まる。
顔は変わらない。
だが、
理解する。
(下がってる)
周囲を見る。
エレノアが遠くで、
別の令嬢と話している。
笑顔。
優雅。
完璧な社交。
だが、
一度だけ。
ほんの一瞬だけ。
レティシアを見る。
目が合う。
エレノアは微笑む。
何もしていない顔。
でも。
全部分かっている顔。
レティシアの心の中で、
小さく言葉が浮かぶ。
(これ…)
少し間。
(排除の流れ)