悪役令嬢は世界のバグを修正する
茶会は続いている。
笑い声もある。
談笑もある。
誰も争っていない。
だが、
見えない順位が動いている。
レティシアの周囲だけ、
会話が少ない。
空席が少し多い。
話題が回ってこない。
セシリアは笑顔を崩さないまま、
カップを置いた。
そして、
ほんの少しだけ体を寄せる。
小声。
「……まずいわね」
レティシアが横を見る。
「何が?」
セシリアは視線を前に向けたまま答える。
「このままだと」
一拍。
「下に落ちる」
レティシアが少し考える。
「下?」
セシリアが小さく息を吐く。
「順位よ」
レティシアが首を傾ける。
「順位?」
セシリアが言う。
「社交順位」
静かに。
はっきりと。
レティシアの手が止まる。
「……あるの?」
セシリアは微笑んだまま答える。
「あるのよ」
「見えないだけで」
周囲を見る。
王家派の輪。
騎士派の輪。
魔法派の輪。
古貴族派の輪。
新貴族派の輪。
それぞれに中心がいて、
外側がいて、
端がいる。
セシリアが続ける。
「誰が上で」
「誰が下で」
「誰が危険で」
「誰が無視していいか」
「全部決まるの」
レティシアが小さく言う。
「大会みたい」
セシリアが苦笑する。
「もっと厄介よ」
一拍。
「点数が見えないから」
少し間。
セシリアの声がさらに小さくなる。
「今ね」
「かなり下がってる」
レティシアの目がわずかに動く。
「……そう」
セシリアが続ける。
「さっきの政治の話」
「礼儀チェック」
「受け答え」
「全部見られてる」
一拍。
「しかも」
「どこにも属してない」
レティシアが静かに言う。
「入らないとだめ?」
セシリアが即答する。
「今は入らなくていい」
少し間。
「でも」
「孤立はだめ」
その瞬間。
視界がノイズで揺れる。
赤い文字。
SYSTEM
RANK UPDATE PENDING
次の行。
SOCIAL SCORE CALCULATING
さらに。
POSITION NOT FIXED
一瞬で消える。
レティシアの指がわずかに動く。
心の中で思う。
(更新待ち…)
少し間。
(まだ確定してない)
周囲を見る。
令嬢たちが笑っている。
普通に話している。
でも、
ところどころで視線が来る。
測る目。
評価する目。
離れる目。
セシリアが小さく言う。
「次が来るわ」
レティシア
「次?」
セシリア
「順位が決まるイベント」
一拍。
「たぶん」
少し間。
「今日の最後」
その瞬間、
遠くで笑っていたエレノアが、
ゆっくりこちらを見る。
目が合う。
微笑む。
完璧な笑顔。
そして、
ゆっくりカップを置く。
レティシアの視界に、
一瞬だけ赤い文字が走る。
SYSTEM
RANK EVENT READY
すぐ消える。
レティシアは小さくつぶやく。
「……来る」