悪役令嬢は世界のバグを修正する
茶会は終盤に入っていた。
日差しが少し傾き、
庭園の影が長く伸びている。
紅茶の香りも、
さっきより薄い。
会話の輪も、
少しずつ形を変えている。
レティシアはカップを置いたまま、
静かに周囲を見た。
王家派。
中心にエレノア。
その周りに上位令嬢。
さらに外側に、
追従する家。
騎士派。
武門貴族が固まっている。
魔法派。
研究系の家が集まっている。
古貴族派。
距離を取りながらも、
一番上に座っている。
新貴族派。
数は多いが、
中心が弱い。
そして。
どこにも属していない場所。
空白。
その中に、
自分がいる。
レティシアの視界が、
ゆっくり変わる。
人の配置が、
線になる。
会話の流れが、
図になる。
距離が、
数値みたいに見える。
評価が、
重さみたいに見える。
全部、
構造に見える。
その瞬間。
空間に、
薄い線が浮かぶ。
空気の中に、
淡く光る文字。
ルーン。
魔法じゃない。
世界の文字。
配置の上に、
重なるように浮かぶ。
一瞬だけ、
赤い表示。
SYSTEM
SOCIAL STATUS LOW
次の行。
POSITION UNSTABLE
さらに。
ELIMINATION ROUTE POSSIBLE
レティシアの呼吸が少しだけ止まる。
目を閉じる。
開く。
表示は消えている。
でも、
分かる。
今の位置が。
心の中でつぶやく。
(弱い…)
少し間。
(ここでは)
周囲を見る。
笑顔。
礼儀。
優雅な動き。
完璧な社交。
でも、
自分だけ違う。
(負けてる)
静かに視線を上げる。
遠く。
王家派の中心。
エレノアが笑っている。
誰かと話している。
優雅に。
自然に。
そのまま、
一瞬だけこちらを見る。
目が合う。
エレノアは微笑む。
勝っている側の笑顔。
余裕の笑顔。
何もしていない顔。
でも、
全部分かっている顔。
レティシアの視界に、
最後にもう一度だけ、
赤い文字が走る。
SYSTEM
SOCIAL CONFLICT CONTINUE
NEXT EVENT READY
一瞬。
空間の奥に、
薄くルーンが光る。
ゆっくり消える。
レティシアは小さくつぶやく。
「……イベント」
少し間。
「次が来る」
外では、
馬車の音がしていた。
社交は終わらない。
戦いも終わらない。
ここからが本番。