悪役令嬢は世界のバグを修正する
春の社交シーズン。
王都の空気は、目に見えないまま変わり始めていた。
最初に動いたのは、
新貴族派だった。
場所は王都の小規模サロン。
成り上がり貴族や新興家が集まる場。
派手すぎず、だが情報が早い場所。
セシリアが入ると、
すぐに視線が集まる。
「セシリア様」
「ごきげんよう」
以前よりも距離が近い。
警戒よりも、
様子見。
セシリアは自然に笑う。
「お招きありがとうございます」
伯爵令嬢が言う。
「最近お忙しそうですね」
少し意味のある言い方。
噂の確認。
セシリアは微笑んだまま答える。
「妹のことで、少しだけ」
その言い方は絶妙だった。
否定しない。
認めすぎない。
逃げない。
伯爵令嬢が頷く。
「色々聞きますわ」
別の令嬢。
「ですが」
少し間。
「アルヴェルン家が問題とは思いません」
空気が変わる。
セシリアは何も言わない。
ただ軽く微笑む。
新貴族派の一人が言う。
「家はまともですもの」
さらに。
「むしろ優秀すぎるくらい」
小さな笑い。
セシリアは軽く話題を変える。
それだけで、
流れが決まる。
――新貴族派、中立。
数日後。
騎士派の集まり。
武門貴族の茶会。
空気は硬い。
礼儀より実力を見る場。
セシリアが入る。
騎士家の令嬢が見る。
値踏みの目。
「来たのね」
「ええ」
短い会話。
無駄がない。
騎士家の令嬢が言う。
「妹さん、強いらしいわね」
試す言い方。
セシリアは頷く。
「ええ」
それだけ。
自慢しない。
否定しない。
次の言葉。
「戦うなら頼りになります」
その一言で空気が変わる。
騎士派の令嬢が少し笑う。
「……嫌いじゃないわ」
別の令嬢。
「社交は苦手でもいい」
「騎士団は気にしない」
さらに。
「敵に回す方が面倒ね」
小さな笑いが起きる。
――騎士派、中立へ。
さらに別の日。
魔導院関係の集まり。
魔法派サロン。
ここは噂が早い。
そして冷静。
セシリアが入ると、
すぐに質問が飛ぶ。
「研究所が注目してるそうですね」
「干渉したとか」
「本当ですか?」
セシリアはカップを持つ。
一口飲む。
落ち着いて答える。
「研究所が興味を持つのはいつものことです」
軽い言い方。
だが否定しない。
魔法派の令嬢が目を細める。
「つまり本物」
セシリアは微笑む。
「優秀ではあります」
沈黙。
次の瞬間。
魔法派の空気が変わる。
「なら切れない」
「むしろ必要」
「危険でも価値がある」
――魔法派、様子見。
最後に、
古貴族の夜会。
一番厄介な場所。
血統を重んじる者たち。
ここで否定されれば終わる。
セシリアは深く礼をする。
完璧な角度。
完璧な間。
老侯爵夫人が言う。
「色々聞いております」
重い声。
セシリアは微笑む。
「ご心配をおかけしております」
否定しない。
言い訳しない。
逃げない。
老夫人が少し黙る。
そして言う。
「妹は変わっているそうね」
少し間。
セシリアは答える。
「ええ」
さらに。
「ですが」
静かに続ける。
「アルヴェルンは変わりません」
沈黙。
長い沈黙。
やがて老夫人が頷く。
「……そうね」
別の令嬢が言う。
「家はまとも」
「姉は優秀」
さらに。
「切る理由はない」
――古貴族、様子見へ。
その頃。
学園の廊下。
レティシアが歩いている。
前よりも、
避けられない。
視線は来る。
だが敵意だけじゃない。
迷い。
保留。
計算。
空気が違う。
レティシアが止まる。
空を見る。
視界に赤文字。
SYSTEM
SOCIAL PRESSURE ↓
次の行。
HOUSE STATUS RECOVERING
さらに。
SUPPORTERS
→ NEW NOBLE
→ KNIGHT FACTION
→ MAGIC FACTION (INTEREST)
→ OLD NOBLE (WAIT)
文字が揺れる。
レティシアが小さく言う。
「……戻ってる」
少し間。
「家の評価」
遠くのサロン。
セシリアが笑っている。
令嬢たちが安心した顔をしている。
誰も気付かない。
だが確実に。
排除の流れが、
止まり始めていた。