悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都中央区。
大貴族の屋敷で開かれる春季大茶会。
庭園は広く、噴水があり、
白いテーブルがいくつも並べられている。
参加者は上級貴族のみ。
王家派。
騎士派。
魔法派。
古貴族派。
新貴族派。
すべての派閥が揃う。
ここで失敗すれば終わる。
ここで成功すれば流れが変わる。
そんな場所だった。
ざわめきの中、
入口の方で小さな声が上がる。
「……来たわ」
「アルヴェルン家」
「姉の方」
視線が集まる。
セシリアが入ってくる。
歩き方はいつも通り。
速すぎず、
遅すぎず、
視線を集める速度。
ドレスは上品。
流行を押さえつつ、
派手すぎない。
家格に合った色。
装飾も過不足ない。
完璧だった。
令嬢の一人が小声で言う。
「……強い」
別の令嬢。
「場を知ってる」
セシリアは止まらない。
最初に向かうのは、
王家派の席。
一番難しい場所。
王族関係の令嬢が座っている。
セシリアは深く礼をする。
完璧な角度。
完璧な間。
「本日はお招きありがとうございます」
王家派の令嬢が頷く。
「よく来てくださいました」
短い会話。
余計なことは言わない。
だが距離を間違えない。
一言だけ。
「今年は忙しくなりそうですね」
王家派の令嬢が少し笑う。
「ええ」
それ以上踏み込まない。
政治に入りすぎない。
だが避けない。
絶妙な距離。
王家派の空気が緩む。
「さすがね…」
次に動く。
騎士派の席。
武門貴族の令嬢たち。
ここは礼儀より胆力を見る。
セシリアは普通に歩いて行く。
余計な笑顔を作らない。
騎士家の令嬢が言う。
「アルヴェルン家」
「妹さん、強いらしいわね」
試す声。
セシリアは頷く。
「ええ」
それだけ。
次の一言。
「戦場では頼りになります」
騎士派の令嬢が笑う。
「嫌いじゃない」
別の令嬢。
「社交が苦手でも問題ないわ」
空気が柔らかくなる。
――騎士派、良好。
次。
魔法派の席。
魔導院関係の家。
ここは理屈を見る。
感情では動かない。
セシリアは礼をする。
丁寧だが重すぎない。
魔法派の令嬢が言う。
「研究所が注目しているそうですね」
セシリアは微笑む。
「ありがたいことです」
否定しない。
誇らない。
逃げない。
次の一言。
「扱いには注意が必要ですが」
魔法派の目が変わる。
理解した目。
「……本物ね」
「なら切れない」
「むしろ必要」
――魔法派、興味。
次。
古貴族派。
一番厳しい場所。
血統。
礼。
歴史。
すべてを見る。
セシリアは一歩近づく。
深く礼。
静かな声。
「お久しぶりでございます」
老侯爵夫人が見る。
長い沈黙。
試す時間。
セシリアは動かない。
完璧な姿勢。
やがて老夫人が言う。
「噂は聞いております」
セシリアは微笑む。
「ご心配をおかけしております」
言い訳しない。
逃げない。
老夫人が少し目を細める。
「家は変わらないのね」
セシリア。
「はい」
短い返事。
それだけ。
老夫人が頷く。
「ならよろしい」
――古貴族、許容。
最後。
新貴族派。
ここは早い。
すでに空気が違う。
令嬢が笑う。
「セシリア様」
「安心しました」
「アルヴェルン家は大丈夫ですね」
セシリアが微笑む。
「ありがとうございます」
それだけで十分だった。
全派閥終了。
空気が変わる。
令嬢たちが小声で言う。
「……全部回った」
「しかも完璧」
「王家も騎士も魔法も古貴族も」
「崩れない」
「強すぎる」
「社交の怪物…」
遠くでレティシアが立っている。
人混みの外。
静かに見ている。
その瞬間。
視界に赤文字。
SYSTEM
SOCIAL STATUS ↑↑
次の行。
HOUSE RANK RECOVERING
さらに。
SOCIAL SKILL
→ SS
文字が揺れる。
レティシアが小さく言う。
「……姉さん」
少し間。
「社交SS」
文字が消える。
遠くでセシリアが笑っている。
その笑顔の周りで、
流れが変わる。
イベントがずれる。
配置が崩れる。
そして空間の奥に、
小さく表示が出る。
SYSTEM
EVENT RESISTANCE DETECTED
すぐに消えた。