悪役令嬢は世界のバグを修正する
王都・魔法研究所。
地下最深部。
限られた者しか入れない観測室には、
昼夜の区別がない。
壁一面に刻まれた魔法陣。
その上に重なる観測式。
空中に浮かぶ光の表示。
静かな部屋の中で、
数人の研究員が並んで立っていた。
中央の観測盤に、
前回イベントの記録が表示されている。
光の文字がゆっくり流れる。
SOCIAL EVENT LOG
FINAL PHASE
一瞬止まる。
次の行が赤く点滅する。
ERROR
さらに表示が増える。
STRUCTURE DAMAGE
FLOW BREAK
観測盤の周囲にいる研究員の一人が言う。
「……修復されていません」
別の研究員が操作式に触れる。
表示が拡大される。
ログが細かく分解される。
EVENT FLOW
RIVAL ROUTE
ELIMINATION
FAIL
赤い文字が残る。
ELIMINATION FAIL
その下に、
別の行。
ROUTE LOST
空気が少しだけ重くなる。
誰もすぐに声を出さない。
主任が後ろから近づいてきた。
黒いローブ。
無表情。
観測盤の前で止まる。
何も言わず、
表示を見る。
研究員が小さく言う。
「夜会イベント終了後もログが残っています」
操作を続ける。
さらに下の記録が出る。
UNKNOWN PATH
点滅。
その下に、
名前が表示される。
CECILIA
LETICIA
主任の目がわずかに細くなる。
無言。
研究員が続ける。
「本来なら削除されるはずですが」
「ルートが確定していません」
別の研究員。
「補正も途中で止まっています」
ログが切り替わる。
CORRECTION
RUNNING
FAILED
REWRITE
FAILED
観測盤の光が少し揺れる。
主任が静かに言う。
「拡大」
研究員が式を動かす。
ログがさらに大きく表示される。
EVENT RESULT
UNEXPECTED
FLOW CHANGE
RIVAL ROUTE LOST
ELIMINATION FAIL
そして中央に、
赤い表示。
STRUCTURE DAMAGE
部屋の空気が重くなる。
主任はしばらく何も言わない。
表示を見続ける。
やがて小さく言った。
「……消えていないな」
誰も否定しない。
研究員が慎重に答える。
「はい」
「イベント破壊が記録されたままです」
別の研究員。
「修復ログも途中で停止しています」
主任が腕を組む。
視線は表示から離れない。
UNKNOWN PATH
その文字が点滅する。
主任が低く言う。
「原因は」
研究員がすぐ答える。
「特定不能」
少し間。
別の研究員が指す。
LETICIA
その名前だけが光っている。
「この変数以降、流れが崩れています」
主任の目がわずかに細くなる。
「例外か」
誰も答えない。
答えられない。
表示がゆっくり更新される。
EVENT DATA
INCOMPLETE
STRUCTURE
UNSTABLE
主任が静かに言う。
「次のイベントは」
研究員が操作する。
予定表が出る。
NEXT EVENT
MAGIC TOURNAMENT
主任は一度だけ頷いた。
「……いい」
小さく言う。
「今回確認する」
研究員たちが顔を上げる。
主任は続ける。
「魔法イベントで確認する」
観測盤に新しい表示が出る。
CHECK PREPARING
FLOW TRACE
SCRIPT MONITOR
その下に、
消えない文字。
UNKNOWN PATH
ACTIVE
観測室の中に、
静かな緊張だけが残った。