悪役令嬢は世界のバグを修正する
参加者の整列が終わりかけた頃だった。
闘技場の入口側で、ざわめきが起きる。
最初は小さな波のようだった。
だがすぐに、
周囲の視線が一方向に集まり始める。
「……来た」
誰かが小さく言った。
別の生徒が振り向く。
「帝国だ」
空気が変わる。
門が開く。
ゆっくりと歩いてくる一団。
深い紺の制服。
見慣れない紋章。
魔導帝国の紋。
教師の一人が小さく息を呑む。
「本当に来たのか…」
先頭に立つ少年が、
闘技場へ足を踏み入れる。
その瞬間だった。
空気が揺れた。
目に見えないはずの魔力が、
波のように広がる。
周囲の生徒が思わず後ずさる。
「な…」
「今の…」
「魔力?」
別の生徒が震えた声で言う。
「強い…」
さらに別の声。
「格が違う…」
少年は無表情のまま歩く。
視線も動かさない。
ただ中央へ向かう。
帝国制服。
銀の装飾。
胸元に刻まれた古い紋章。
名前が小さく広がる。
「カイルだ…」
「帝国の天才」
「魔導院主席候補」
「古代式使えるって噂の」
「嘘じゃなかったのか…」
その時。
闘技場の上空。
観測席の魔法式が光った。
同時に――
魔法研究所。
観測室。
巨大な観測式が回転している。
ログが流れる。
MAGIC FLOW
STABLE
STRUCTURE
NORMAL
次の瞬間。
数値が跳ね上がる。
警告音。
研究員が顔を上げる。
「反応増大!」
別の研究員。
「出力異常!」
表示が変わる。
HIGH OUTPUT
さらに。
ANCIENT SIGNAL
TRACE
主任がゆっくり前に出る。
「……誰だ」
ログが拡大される。
対象が指定される。
TARGET
KYLE
表示が揺れる。
HIGH OUTPUT
ANCIENT MATCH POSSIBLE
研究員が息を呑む。
「古代適性…?」
別の研究員。
「一致率高いです」
「こんな数値…」
主任は目を細める。
「帝国か…」
少し間。
低く言う。
「面白い」
その頃。
闘技場中央。
カイルが整列位置に立つ。
その瞬間、
レティシアの視界が歪む。
周囲の魔力が見える。
流れが見える。
線が見える。
そして――
彼の周囲だけ、
構造が違う。
式が違う。
流れが違う。
彼女の視界に表示が出る。
MAGIC STRUCTURE VIEW
LOCK ON
TARGET
KYLE
さらに一瞬。
ANCIENT
COMPATIBLE
すぐ消える。
レティシアは目を細める。
(……この人)
少し間。
(普通じゃない)
カイルがふと視線を動かす。
ほんの一瞬だけ。
レティシアの方を見る。
その瞬間。
空気が震えた。
何かが、
かみ合った。
表示が一瞬だけ光る。
ANCIENT MATCH
POSSIBLE
UNKNOWN PATH
ACTIVE
すぐ消える。
誰も気づかない。
だが、
装置は反応していた。