悪役令嬢は世界のバグを修正する
闘技場中央。
第1試合。
開始の号令と同時に、魔力が弾けた。
火球。
氷刃。
風刃。
次々と魔法が放たれる。
観客席から歓声が上がる。
「速い!」
「もう詠唱終わってる!」
「上級魔法だぞ!」
普通の視界では、
それは激しい魔法戦だった。
だが。
レティシアの視界は違う。
光が分解される。
魔法がほどける。
構造が露出する。
火球は、
円ではなく、
式になる。
氷刃は、
刃ではなく、
流れになる。
風は、
圧ではなく、
計算になる。
表示が浮かぶ。
ORDER
VISIBLE
FLOW
VISIBLE
STRUCTURE
VISIBLE
彼女は瞬きをしない。
全部見えている。
詠唱の順序。
魔力の流入。
処理のタイミング。
発動の瞬間。
そして――
無駄。
一人の生徒が火球を放つ。
その魔法の中に、
余計なルーンが混じっている。
遠回りな構造。
重複する処理。
無駄な安定化工程。
彼女の視界に表示される。
PROCESS
INEFFICIENT
FLOW
DELAY
0.8s
彼女の思考が動く。
(順番…)
次の魔法。
氷刃。
これも同じ。
余計な工程。
遅い処理。
非効率な接続。
(構造…)
さらに別の魔法。
風刃。
これは少しだけ良い。
だがまだ遅い。
まだ無駄がある。
表示が重なる。
OPTIMIZATION
POSSIBLE
SHORTEN
YES
彼女の胸の奥で、
一つの感覚がはっきりする。
(削れる)
少し間。
(全部削れる)
視線が動く。
魔法陣。
結界。
試合フィールド。
全部同じだった。
全部に無駄がある。
全部に遠回りがある。
全部に遅延がある。
彼女の中で言葉になる。
(最短…)
表示が変わる。
PATH
CALCULATION
RUNNING
彼女の目の前に、
別のルートが現れる。
もっと短い順序。
もっと速い流れ。
もっと簡単な構造。
現在の魔法とは違う、
最適化された式。
(……できる)
彼女の指先がわずかに動く。
魔力が流れる。
ほんの少しだけ。
ほとんど気付かれない量。
だが――
視界の中で、
式が書き換わる。
一部だけ。
ほんの一部だけ。
表示が点滅する。
FLOW
ADJUSTED
PROCESS
REDUCED
その瞬間。
フィールドの魔法がわずかに加速する。
ほんの一瞬。
誰も気付かないほどの変化。
だが確かに、
速くなった。
彼女の呼吸が止まる。
(……今)
少し間。
(変えた)
表示が静かに並ぶ。
ORDER
VISIBLE
FLOW
VISIBLE
STRUCTURE
VISIBLE
OPTIMIZATION
AVAILABLE
彼女はゆっくりと目を細める。
(順番を変えれば)
少し間。
(結果も変わる)
遠くで魔法が炸裂する。
歓声が上がる。
試合は続いている。
だが。
誰も気付いていない。
この戦場の中に、
“最適解”を見ている存在がいることに。