悪役令嬢は世界のバグを修正する
切れている。
その一点だけが、
世界の流れを止めていた。
レティシアは、
そこへと意識を向ける。
距離はない。
高さもない。
触れるために、
手を伸ばす必要はない。
(ここ)
ただ、
位置を定める。
それだけで、
構造が近づく。
指先が、
わずかに動いた。
触れた感触はない。
だが、
確かに“重なった”。
ルーンの一部。
途切れている接続。
そこに、
意識が入り込む。
流れが見える。
本来の順序。
分岐。
戻るべき位置。
(違う)
現在の構造が、
ずれている。
一つ前。
ほんの一段だけ、
順序が進みすぎている。
(戻す)
決める。
迷いはない。
完全に直す必要はない。
すべてを書き換える必要もない。
この一点だけでいい。
“最短”。
“最小”。
それだけで、
全体は動き出す。
レティシアは、
その順序に指を沿わせる。
なぞる。
ずれた流れを、
元の位置へと戻すように。
触れているのではない。
“書き直している”。
わずか一箇所。
接続が繋がる。
途切れていた流れが、
静かに連結する。
その瞬間。
世界が、
微かに震えた。
だが、
それだけだ。
大きな変化は起きない。
光も、
音も、
戻らない。
ただ――
止まっていた構造の中に、
一つだけ、
“進める状態”が生まれる。
(……これでいい)
レティシアは、
手を引く。
何も起きていないように見える。
だが、
違う。
世界の中で、
確かに一つ、
処理が再開される準備が整った。
ほんの一箇所。
ほんのわずかな修正。
それだけで――
世界は、
再び“動ける状態”へと戻された。