悪役令嬢は世界のバグを修正する
静止した世界の中心で、
レティシアは立っている。
動いているのは、
自分だけ。
空のルーン。
地の魔法陣。
未完の詠唱。
すべてが、
“途中”のまま止まっている。
だが、
彼女には見えている。
その先が。
その意味が。
視線をわずかに動かす。
ルーンの一つ。
そこに刻まれているのは、
記号ではない。
命令。
処理。
条件。
(これ……)
言葉にしようとして、
止まる。
今まで、
何度も触れてきた。
魔法として。
式として。
だが、
違う。
決定的に、
違う。
少し間。
そして、
はっきりと理解する。
(魔法じゃない)
その瞬間、
すべての意味が変わる。
詠唱は、
力を引き出すためのものではない。
実行順序の指定。
魔法陣は、
現象を起こすための図形ではない。
構造定義。
術者は、
力を扱う存在ではない。
実行者。
――ユーザー。
(……私が)
その位置にいる。
使っているのではない。
触れているのでもない。
“実行している”。
レティシアは、
静かに目を伏せる。
恐怖はない。
混乱もない。
ただ、
理解だけがある。
この世界は、
魔法で動いているのではない。
構造で動いている。
そして今、
自分は――
その“外側の操作”に、
手をかけている。