悪役令嬢は世界のバグを修正する
静止した世界。
その頂点。
空に展開された巨大ルーンが、
わずかに――
歪んだ。
本来なら、
完全に同期し、
整合されたはずの構造。
だが、
一箇所。
ほんの一瞬だけ、
揺らぐ。
レティシアはそれを見る。
奥。
さらに上。
通常の層ではない。
“上位”。
管理のための領域。
今まで、
閉ざされていたはずの場所。
そこに、
異常が走る。
表示が、
浮かび上がる。
UPPER CONTROL
LOCK
FAIL
短い。
だが、
意味は明確だった。
ロック失敗。
封鎖が、
維持できていない。
制御が、
通っていない。
(……上)
レティシアは、
無意識に理解する。
これは下の問題ではない。
上からの制御。
管理。
補正。
そのすべてが、
今――
届いていない。
本来なら。
異常が発生した時点で、
上位層が強制的に修正する。
侵入は許されない。
干渉は拒否される。
だが、
違う。
今、
その“ロック”が、
外れている。
(入ってる……?)
いや。
“通っている”。
拒否されていない。
排除されていない。
レティシアの存在が、
そこに届いている。
その結果。
上位制御が、
機能していない。
世界の“管理側”が、
初めて、
対応できない状態に陥る。
静止の中で、
わずかに空間が軋む。
完全な制御だったはずの領域に、
ひびが入る。
それは小さい。
だが、
決定的だった。
世界は、
守りきれなかった。
その瞬間。
レティシアは、
無言のまま、
空を見上げている。
理解はしていない。
だが、
確信だけが残る。
自分は、
触れてはいけない場所に、
触れている。
そして――
それは、
もう拒まれていない。