悪役令嬢は世界のバグを修正する
移動中。
隊列はゆっくりと進んでいる。
馬車の軋む音。
足音。
装備の擦れる気配。
誰もが前を見ている。
遠征という非日常に、
意識が向いている。
その中で。
レティシアだけが、
外を見ていた。
馬車の窓越し。
流れていく景色。
草原。
林。
そして、
遠くに見える山。
視線は、
自然とそこへ向く。
理由はない。
だが、
引かれる。
(……)
山の稜線。
その奥。
本来なら、
何も見えないはずの場所。
だが、
彼女の視界だけが、
わずかに変わる。
重なる。
現実の風景の上に、
別の構造が。
ルーン。
線。
流れ。
そして――
一瞬だけ、
表示が浮かぶ。
ANCIENT STRUCTURE
ACTIVE
すぐに消える。
何事もなかったかのように、
景色は元に戻る。
だが。
レティシアは、
視線を外さない。
(……今の)
錯覚ではない。
確かに見えた。
あそこに。
“動いているもの”がある。
止まっているはずの遺跡。
崩れているはずの構造。
それが、
動いていた。
(起動してる)
そして。
次の感覚が来る。
音ではない。
言葉でもない。
ただの、
感覚。
(……呼んでる)
確信に近い理解。
あれは、
ただそこにあるのではない。
反応している。
自分に。
レティシアは何も言わない。
ただ静かに、
その方向を見つめている。
遠征の目的地。
古代遺跡。
それは、
発見されるものではない。
待っているものでもない。
“応答しているもの”だ。
隊列は進む。
距離が縮まる。
その間にも、
見えない層で、
何かが動いている。
まだ誰も知らない。
この遠征が、
単なる調査では終わらないことを。
――遺跡はすでに、目を覚ましている。