悪役令嬢は世界のバグを修正する
遺跡の入口を越えた瞬間、
空気が変わった。
外とは違う。
風の流れが止まり、
音がわずかに吸われる。
一歩。
また一歩。
遠征隊は、
内部へと進んでいく。
最初に気づいたのは、
“崩れていない”ことだった。
外ではあれほど目立っていた破損。
割れ。
崩落。
風化。
それらが、
ここにはない。
壁面。
滑らかだった。
削られたようでも、
磨かれたようでもない。
均一。
ひび一つなく、
整っている。
天井。
一定の間隔で、
同じ構造が繰り返されている。
柱の配置も、
通路の幅も、
寸分の狂いもない。
誰かが思わず声を漏らす。
「中の方が綺麗じゃないか?」
別の生徒が周囲を見回す。
「なんで外だけあんなに崩れてるんだ?」
疑問。
当然の違和感。
だが、
明確な答えは出ない。
「外は古いからだろ」
誰かが適当に言う。
「中はたまたま残ったとか?」
納得のような、
曖昧な言葉。
だが。
その説明では、
足りない。
崩壊には偏りがある。
残存にも偏りがある。
それは自然ではない。
むしろ――
意図的に見える。
レティシアは、
その通路を静かに見ている。
彼女の視界では、
さらに明確だった。
外側。
構造が途切れている。
ルーンが断ち切られている。
接続が切断され、
機能が失われている。
内側。
構造が維持されている。
ルーンが連続している。
流れが、
そのまま保たれている。
(……違う)
同じ遺跡ではない。
状態が違う。
外は、
壊れたのではない。
“切られている”。
内側は、
守られている。
“残されている”。
その境界を、
今、自分たちは越えた。
レティシアは何も言わない。
ただ、
その構造の違いを受け入れている。
外。
停止した断片。
内。
維持された領域。
ここは、
遺跡の内部ではない。
“内部機構”だ。