悪役令嬢は世界のバグを修正する
通路はまっすぐ続いていた。
崩れもなく、
段差もない。
ただ奥へ伸びる、
均一な道。
そのはずだった。
先頭を歩いていた生徒が、
ふと足を止める。
「……あれ?」
その声に、
後ろの数人も立ち止まる。
何かがあるようには見えない。
床は平坦。
障害物もない。
だが、
進めない。
目に見えない“何か”に、
行く手を遮られているような感覚。
「いや、普通に行けるだろ」
別の生徒が笑いながら、
一歩踏み出す。
その瞬間。
空気が歪む。
視界が揺れる。
音が遠のく。
一瞬。
そして。
――元に戻る。
「……え?」
踏み出したはずの位置に、
そのまま立っている。
進んでいない。
周囲も同じまま。
誰かが声を上げる。
「今、戻った!?」
ざわめきが広がる。
「いや、動いたよな?」
「でも位置……変わってない」
もう一人が試す。
慎重に、
ゆっくりと一歩。
――同じ。
視界が歪み、
一瞬だけ感覚が途切れ、
気づけば、
元の場所。
「なんだこれ……」
戸惑いが広がる。
進めない。
だが、
壁もない。
ただ、
“通れない”。
レティシアは、
その様子を静かに見ている。
彼女の視界では、
まったく違う光景が広がっていた。
床。
そこに、
ルーンが並んでいる。
整列された構文。
複数の線が、
前方へ伸びている。
分岐。
経路。
どれも同じように見えるが、
流れが違う。
いくつかは途中で途切れ、
いくつかは循環し、
一つだけが、
先へと繋がっている。
(……順序)
進み方が決まっている。
ただ歩けばいいわけではない。
“正しく進む必要がある”。
先ほどの現象が、
頭の中で結びつく。
踏み込んだ瞬間の歪み。
感覚の断絶。
位置のリセット。
(違うルートを選んだ)
だから、
戻された。
これは罠ではない。
攻撃でもない。
“やり直し”。
順序が違えば、
最初に戻る。
ただそれだけの処理。
レティシアは、
ゆっくりと床を見る。
正しい流れ。
繋がる線。
それははっきりと見えている。
迷う必要はない。
彼女は、
一歩踏み出した。