悪役令嬢は世界のバグを修正する
ざわめきが広がる中、
レティシアは一歩前に出る。
誰もが足を止めている場所。
見えない“境界”。
だが彼女の視界には、
はっきりとした“道”があった。
床に走る線。
分岐する経路。
途中で途切れる流れ。
循環して戻る構造。
そして、
一つだけ。
奥へと繋がる線。
(……これ)
迷いはない。
考える必要もない。
自然と理解している。
どこを通るべきか。
どの順序で進むべきか。
それが、
“見えている”。
レティシアは、
そのまま足を踏み出す。
一歩。
何も起きない。
二歩。
空間は歪まない。
三歩。
感覚の途切れもない。
ただ、
進む。
正しい順序で。
正しい位置を踏み、
正しい流れに沿って。
彼女の動きは、
淀みがない。
まるで、
最初から決まっていたかのように。
そして。
そのまま、
通過する。
何も起きずに。
完全に。
後ろで、
息を呑む音がする。
「……え?」
誰かが呟く。
「なんで……平気なんだ?」
信じられないものを見る目。
さっきまで、
誰も進めなかった場所。
一歩踏み出せば、
戻されていた空間。
それを、
何事もなかったかのように、
通り抜けた。
レティシアは振り返らない。
止まることもない。
ただ、
先へ進む。
その動きに、
特別な意識はない。
術を使ったわけでもない。
解除したという認識もない。
ただ、
“そう進んだだけ”。
(……通れる)
それが、
当たり前のように理解できている。
なぜなのかは、
考えていない。
後ろでは、
誰もが困惑していた。
だが、
レティシアだけは違う。
彼女にとってこれは、
異常でも奇跡でもない。
ただの、
“正しい進み方”だった。