悪役令嬢は世界のバグを修正する
レティシアの動きが、
一つの区切りに達した瞬間。
空間が、
静かに変わる。
守護者の体が、
揺れる。
それまで絶えず変化していた輪郭が、
ゆっくりと収束していく。
崩れない。
書き換わらない。
“固定”される。
ルーンの流れが整列する。
構造が安定する。
未完成だった人型が、
初めて“形”を持つ。
その動きが、
止まる。
完全ではない。
だが、
明らかに変わっている。
攻撃が来ない。
構えていた騎士が、
わずかに動揺する。
「……来ない?」
一拍。
守護者が、
ゆっくりと動く。
だが、
振るわれない。
叩きつけられない。
ただ、
向けられる。
視線のようなものが、
レティシアへと集中する。
“見ている”。
攻撃ではない。
追跡でもない。
観測。
空間の空気が、
さらに静まる。
先ほどまであった圧力が消える。
緊張が、
質を変える。
レティシアは、
その変化を受け止める。
(……変わった)
敵対ではない。
排除でもない。
次の段階。
守護者の体表に、
ルーンが再配置される。
今度は速くない。
正確に、
順序通りに。
視界に、
新たな意味が浮かぶ。
攻撃のためではない。
確認のための構造。
“観測モード”。
レティシアの一挙一動が、
記録されている。
動き。
順序。
選択。
すべてが、
評価対象。
騎士たちは動けない。
どうすればいいか、
分からない。
だが、
レティシアは違う。
この流れを、
理解している。
試験は終わっていない。
進んだだけだ。
守護者はもう攻撃しない。
だが、
それは安全を意味しない。
次に求められるのは――
より“正しい”入力だった。