悪役令嬢は世界のバグを修正する
中央に浮かぶ結晶。
静かに回転している。
誰も近づかない。
近づけない。
レティシアだけが、
一歩、前に出る。
迷いはない。
理由もない。
ただ、
分かっている。
これは、
触れるものだ。
ゆっくりと、
手を伸ばす。
距離が縮まる。
結晶の表面に、
指先が届く。
――触れる。
その瞬間。
“崩れる”。
砕けるのではない。
壊れるのでもない。
展開する。
結晶がほどける。
形を失い、
内部の構造が露出する。
光が、
溢れる。
流れが、
解き放たれる。
それが、
レティシアへと流れ込む。
避けられない。
防げない。
拒絶もできない。
流入。
視界が、
塗り替わる。
ルーン。
構文。
接続。
無数の情報が、
一気に流れ込んでくる。
だが、
混乱はない。
理解している。
最初から知っていたかのように、
受け取っている。
(……これ)
意味が分かる。
使い方が分かる。
どこに触れれば、
何が変わるのか。
考える必要がない。
“分かる”。
体ではない。
頭でもない。
もっと直接的な場所に、
刻まれていく。
流れが収束する。
光が消える。
結晶はもうない。
残っているのは、
レティシアだけ。
視界の奥に、
表示が浮かぶ。
PERMISSION FRAGMENT
ACQUIRED
取得。
だがそれは、
何かを手に入れた感覚ではない。
増えた。
内側に、
何かが追加された。
機能。
世界に触れるための、
新しい手段。
レティシアは、
静かに手を下ろす。
何も持っていない。
だが、
確かに変わっている。
これは、
宝ではない。
力でもない。
“権限”。
世界に対して、
一つだけ許された操作。