悪役令嬢は世界のバグを修正する
流れが収まる。
光が消える。
静寂が戻る。
だが――
何も戻っていない。
レティシアは、
ゆっくりと目を閉じる。
内側に、
“何か”がある。
増えている。
形はない。
重さもない。
だが、
確かに存在している。
(……使える)
考えた瞬間。
視界の奥で、
構造が開く。
ルーン。
流れ。
接続。
それらが、
以前よりも近い。
手を伸ばせば、
届く位置にある。
足元の回路。
その一部が、
わずかに乱れている。
ほんの小さなズレ。
これまでは、
“見るだけ”だった。
だが今は違う。
(……ここ)
触れる。
物理ではない。
“順序”に触れる。
一箇所。
ほんの一瞬、
並びを変える。
次の瞬間。
回路が、
整う。
ズレが消える。
書き換わった。
レティシアは、
わずかに息を吐く。
(……できる)
小規模。
限定的。
だが、
確実に。
さらに、
意識を向ける。
空間の流れ。
通常なら、
触れられない層。
その奥へ、
手が届く。
(……上げる)
瞬間。
世界の“優先順位”が変わる。
ほんの一瞬だけ、
自分の処理が先に来る。
音が遅れる。
光がわずかにずれる。
だが、
レティシアだけが先に動く。
割り込んでいる。
通常の流れに。
すぐに戻る。
長くは続かない。
だが、
確かに可能だ。
最後に、
魔法を思い浮かべる。
詠唱。
構築。
発動。
その順序。
(……いらない)
瞬間。
構造が、
一気に短縮される。
意図。
それだけで、
形になる。
詠唱がない。
手順がない。
“考えた”だけで、
成立する。
レティシアは、
静かに目を開ける。
理解している。
これは魔法じゃない。
力でもない。
“権限”。
触れる。
変える。
割り込む。
世界に対して、
許された操作。
彼女の中で、
確かに一つ、
何かが変わった。
それは強さではない。
もっと直接的なもの。
“扱える”ということだった。