悪役令嬢は世界のバグを修正する
扉が閉じる。
音は――
残らない。
厚い石の扉が、
確かに動いたはずなのに、
その余韻すら、
空間に残らなかった。
そこは、
神殿の奥。
一般には開かれない領域。
祈りも、
儀式も、
ここでは行われない。
白い石で構成された空間。
柱も、
壁も、
床も、
すべてが均一に整えられている。
装飾はない。
象徴もない。
神を示すものすら、
存在しない。
ただ、
“整っている”。
光がある。
どこからともなく、
均等に降りてくる。
影は薄い。
だが――
温度がない。
暖かさが、
一切ない。
肌に触れても、
何も感じない光。
足音が響かない。
石の床を踏んでいるはずなのに、
音は吸われる。
反響しない。
残らない。
存在が、
ここでは広がらない。
すべてが、
その場で止まる。
空間そのものが、
“固定されている”。
壁の表面。
よく見れば、
微細な線が走っている。
魔法陣ではない。
ルーンでもない。
だが、
規則性がある。
構造として、
組まれている。
結界。
だが、
魔力の揺らぎがない。
詠唱も、
維持も、
感じられない。
“常在している”。
外界と、
完全に切り離されている。
干渉は入らない。
影響も受けない。
ここは、
守られているのではない。
切断されている。
祈るための場所ではない。
願うための場所でもない。
ここは――
“判断するための場所”。
感情も、
祈りも、
必要としない空間。
ただ、
情報だけが通る。
結果だけが残る。
神殿の奥で、
静かに。
世界の扱いが、
決められる場所だった。