悪役令嬢は世界のバグを修正する
決定が下されたあとも、
空間は変わらない。
静寂はそのまま、
揺らぎもない。
だが、
処理は進んでいる。
一人の神官が、
淡々と告げる。
「通常騎士では対応不可」
別の神官が続く。
「魔導院による制御も不完全」
短い言葉が、
積み上がる。
対象は、
既存の枠に収まらない。
力でもない。
術でもない。
“接続”。
それに対処するには、
同質の要素が必要になる。
「信仰と制御」
「両立した個体が必要」
結論は、
すぐに出る。
迷いはない。
上位神官が、
わずかに視線を動かす。
空間の奥。
閉ざされていた扉へ。
「聖騎士を派遣する」
その言葉と同時に、
扉が――開く。
音はない。
ただ、
境界がずれるように、
空間が分かれる。
奥は暗い。
光が届かない領域。
その中に、
影がある。
人影。
だが、
輪郭が曖昧だ。
固定されていない。
存在しているのに、
完全には定義されていないような違和感。
一歩、
踏み出す。
その動きに、
無駄がない。
音もない。
気配も、
最小限に抑えられている。
神官たちは、
その存在を見ても、
何も言わない。
すでに、
前提として知っている。
上位神官が、
名を呼ぶ。
「……ルシアン」
影が、
わずかに止まる。
応答はない。
だが、
確かに認識されている。
顔は見えない。
光の届かない位置に、
意図的に留まっている。
それでも分かる。
これは、
通常の騎士ではない。
信仰。
規律。
そして――
制御。
それらが、
極限まで統合された存在。
上位神官が、
静かに告げる。
「対象を管理下に置け」
短い命令。
だが、
それ以上は必要ない。
影が、
わずかに動く。
それだけで、
了承は成立する。
次の瞬間、
その姿は、
すでにそこにいない。
音もなく、
痕跡もなく。
空間には、
再び静寂だけが残る。
表示は変わらない。
ACTION
CONTROL / SEAL
だが、
それを実行する存在は、
すでに動き出していた。