悪役令嬢は世界のバグを修正する
完全に去った――
そう認識される直前。
まだ、
気配が残っている。
いや、
“残している”。
空間の奥、
光の届かない境界。
そこから、
声だけが落ちる。
「対象は安定していますか」
静か。
抑揚がない。
感情が読み取れない。
問いかけではあるが、
確認に近い。
神官の一人が答える。
「不安定だ」
即答。
評価ではなく、
事実の提示。
わずかな間。
その沈黙の中で、
何かが処理される。
計測でも、
推測でもない。
“適用”。
再び、
声が落ちる。
「ならば、調整が必要だな」
それだけ。
短い結論。
敵意はない。
警戒もない。
排除の意志もない。
対象をどうするか、
ではなく。
どう“整えるか”。
それだけを見ている。
個としての評価はない。
人格への関心もない。
存在は、
状態として扱われる。
不安定であれば、
安定させる。
逸脱していれば、
戻す。
その処理を、
当然のように行う存在。
声は、
そこで途切れる。
気配も消える。
完全に。
神官たちは、
何も言わない。
確認も、
再指示もない。
すでに理解している。
あれは、
敵ではない。
だが――
最も確実に、
対象を変える存在だと。