悪役令嬢は世界のバグを修正する
正門の外で、
何かが変わる。
音はない。
馬車の車輪も、
蹄の響きも、
聞こえない。
だが、
確かに“到着した”。
門の空気が、
わずかにずれる。
境界が、
静かに押し広げられるように。
次の瞬間、
そこに一人の男が立っている。
誰も、
その現れた過程を見ていない。
気づいたときには、
すでに“いる”。
白を基調とした装束。
無駄のない線。
軽装の鎧が、
最低限だけ組み込まれている。
武装は少ない。
剣も、
飾りに近い。
強さを誇示する要素は、
どこにもない。
むしろ、
目立たない。
人混みに紛れれば、
見失うほどに。
だが――
空気が変わる。
音もなく、
圧もなく、
ただ、
“密度”だけが変わる。
近くにいた騎士の一人が、
わずかに息を止める。
次の瞬間、
背筋が伸びる。
意識していない動き。
反射に近い。
隣の騎士も、
同じように姿勢を正す。
視線は動かさない。
だが、
明らかに緊張が走る。
誰も命じていない。
それでも、
体が理解している。
“格が違う”。
その男は、
何も見ていないように歩き出す。
だが、
実際には違う。
視線は、
人を追っていない。
空間を、
なぞっている。
結界の継ぎ目。
魔力の流れ。
配置の歪み。
すべてを、
通過しながら拾っていく。
判断ではない。
処理。
その存在は、
目立たない。
強そうにも見えない。
それでも――
そこにいるだけで、
空間が“正される”ような錯覚があった。