悪役令嬢は世界のバグを修正する
ルシアンの視界に、
“意味”はない。
色も、
形も、
そのままでは価値を持たない。
代わりに、
別のものが重なっている。
空間の安定性。
見えない歪みが、
数値のように並ぶ。
わずかなズレ。
遅延。
均衡が、
どこで保たれているか。
結界の精度。
層の厚さ。
接続の継ぎ目。
維持の揺らぎ。
不完全な部分が、
浮き上がる。
魔力の流れ。
方向。
速度。
優先順位。
どこから入り、
どこへ抜けているか。
すべてが、
同時に処理される。
考えてはいない。
選んでもいない。
流れ込んだ情報が、
そのまま整理される。
そこにあるのは、
思考ではない。
“解析”。
異常があれば、
浮き上がる。
問題があれば、
位置が定まる。
だが、
それをどうするかは――
まだ決めない。
ルシアンは、
止まらずに歩く。
視線は動くが、
焦点は固定されない。
対象を追っているのではない。
状態を更新している。
判断ではない。
結論でもない。
ただ、
今この瞬間の“正確な状態”を取得する。
それだけ。
そして、
その中に。
ひとつだけ、
明確に異質なものがある。
他と同じように、
測れる。
だが、
同じ枠に収まらない。
そこだけが、
わずかに揺らぐ。
ルシアンの処理が、
ほんの一瞬だけ深く潜る。
解析。
照合。
再確認。
そして――
その対象へ、
視線が向く。