悪役令嬢は世界のバグを修正する
人の流れの中で、
それは自然に起きる。
中庭を横切る動線。
生徒たちが行き交う中、
二つの軌道が重なる。
偶然のように。
だが――
ほんの一瞬だけ、
世界の流れがずれる。
ルシアンの足が、
止まる。
それまで一切の無駄なく進んでいた動きが、
そこで初めて“停止する”。
理由はない。
説明もない。
ただ、
処理が引っかかった。
視線が動く。
迷いなく、
一方向へ。
レティシア。
その瞬間、
空気がわずかに固定される。
レティシアの内側で、
何かが止まる。
息ではない。
思考でもない。
もっと深いところ。
“流れ”。
見られている。
違う。
それでは足りない。
何かに、
掴まれている。
逃げ場のない位置で、
固定されている。
触れられていない。
干渉もされていない。
それでも――
確実に、
“接続されている”。
レティシアは動かない。
視線だけが、
ルシアンと交差する。
そこに、
感情はない。
敵意も、
興味も、
何もない。
ただ、
確認。
彼女の中にある“何か”と、
目の前の存在が、
一致するかどうか。
照合。
レティシアは、
それを理解する。
言葉ではなく、
感覚で。
(見られてるんじゃない)
一拍。
(……違う)
視線の奥にあるものが、
わずかに深く潜る。
(これ……)
結論は、
自然に浮かぶ。
(照合されてる)
自分自身ではない。
もっと内側。
“権限”。
それに対して、
目の前の存在が反応している。
時間は、
一瞬も経っていない。
だが、
その中で、
すべてが確認されていた。
ルシアンの足が、
再び動く。
停止は終わる。
何もなかったかのように、
歩き出す。
だが、
レティシアには分かる。
今の一瞬で、
何かが“通った”。