悪役令嬢は世界のバグを修正する
視線が交差したまま、
時間が一瞬だけ引き延ばされる。
動きは止まっていない。
周囲の生徒も、
風も、
光も、
すべてはそのまま流れている。
それでも――
その一点だけが、
わずかに“固定”されていた。
ルシアンの視線は、
レティシアを捉えている。
だが、
そこに“彼女”はいない。
見ているのは、
もっと内側。
接続。
状態。
整合性。
わずかなズレが、
そこにある。
ほんの僅か。
だが、
無視できない。
解析は終わっている。
確認も済んでいる。
だから、
必要なものは一つだけ。
“結果の出力”。
ルシアンの口が、
わずかに開く。
「……不安定だな」
声は静かだった。
抑揚も、
感情もない。
評価ではない。
感想でもない。
ただ、
処理された結果が、
そのまま言葉になっただけ。
レティシアは、
何も言わない。
その言葉が、
自分に向けられていることは分かる。
だが同時に、
違うことも理解している。
これは、
自分自身への言葉ではない。
もっと内側。
自分の中にある“何か”へ向けられたもの。
(この人……)
わずかな確信。
(見てるんじゃない)
一拍。
(測ってる)
ルシアンは、
それ以上何も言わない。
言葉は必要ない。
結果はすでに出ている。
視線が外れる。
固定が解ける。
時間が、
元の流れへと戻る。
その一言だけが、
わずかに遅れて、
現実に残った。