悪役令嬢は世界のバグを修正する
「……不安定だな」
その一言が、
わずかに遅れて場に落ちる。
「え……何が?」
近くにいた生徒が、
戸惑いの声を上げる。
意味が分からない。
何を指しているのか、
誰にも掴めない。
空気が、
さらに一段階、静まる。
教師の一人が、
わずかに視線を向ける。
そして、
すぐに逸らす。
(何を見ている……?)
理解できない。
だが、
理解してはいけない気がする。
踏み込めば、
何かが崩れる。
そんな直感だけが残る。
騎士団の空気が変わる。
一見して分かるほどではない。
だが、
確実に“上がった”。
警戒。
配置が、
わずかに修正される。
間合い。
視界の重なり。
逃がさない配置。
対象は不明。
だが、
“何かが起きている”と判断している。
カイルは、
動かない。
視線だけが、
わずかに細まる。
(……見えてるのか?)
違和感はあった。
ここに来てから、
ずっと感じている。
だが今の一言で、
それが形を持つ。
見えていないはずのものを、
あの男は見ている。
レティシアは、
何も言わない。
ただ、
静かに理解している。
(この人……)
一拍。
(同じ側)
それは安心ではない。
むしろ逆。
“見える側”。
“触れる側”。
そして――
“管理する側”。
世界の内側に、
手をかける側の人間。
誰も気づかない。
誰も理解しない。
だが、
その場には確かに、
決定的な差が生まれていた。
認識できる者と、
できない者。
同じ空間にいながら、
まったく違うものを見ている者たち。
そしてその中心に、
二人だけが立っている。
同じものを認識しながら、
まったく違う立場にいる存在として。